20 ページ20
あれから体調は回復してノートやプリント類を写させてもらっていた。
もうすぐテストが近いし、本気で勉強をしないと赤点だ。
暗記科目が極端に苦手な私は中学の時から社会科目だけは毎回赤点を取っていた。
いつも先生に言われるのは「他の教科はできるのにね。」だった。
放課後、教室の中で1人。
雨が降っているから当然運動部の声は聞こえなくて、ただ、窓に打ちつけられる雨の音だけを聞いていた。
こういう時に1人でしっかり集中できればいいのだが、近くにあるとつい触ってしまうスマートフォン。
母親からの着信は『何時に帰る?』だった。
遅くなる、と返信して再び机の上のノートに目を移す。
10分前から1行しか進んでいない。
ゆっくりしていれば雨は弱くなるだろう。
生憎傘を持ってきていないから帰るには雨が止むことが条件だ。
少し伸びた前髪をピンで止めて視界は良好。
そろそろ真面目に始めるか、なんて思った矢先、誰かの足音が廊下に響いた。
どうせ担任だろう。
そう思ってオレンジのポールペンを手に取る。
大きな音を立ててドアを開けて教室に入ってきたのはびしょ濡れの檜山くん。
恐らく傘でも忘れたのだろう。
気付かないふりをして勉強を進める。
変に話しかけられても困るだろうと思ったから。
あと、すぐに出て行くと思ったから。
でも檜山くんは全然出て行かなかった。
檜山くんが何をしているかなんて振り向かないと見えないし、振り向いたらきっと「何?」と言われる、もしくは思われるだろう。
何か音でも鳴らしてくれれば自然に振り向くことができる上に、何?と思われることなく見ることができるのに。
別に見たいわけではないけれど、同じ空間にいれば少しは気になるし。
タイミングよくガサッと音がして何事かと思って振り向けばロッカーを漁る檜山くん。
前と同じシチュエーションだ。
314人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちよちば | 作成日時:2023年1月22日 23時