漆拾 “〃 (2)” ページ29
「そうだ、A。三人で向こうに行く話になったのだけれども一緒に行かないかい?」
「森さん五月蝿いし」と太宰さんは小さく呟いた。
確かに「エリスちゃん!エリスちゃん!」と必死にアピールしている首領は何時もより少しばかり騒がしい。
紅葉さんの夜叉が出るのも時間の問題だろう。
太宰さんは、さらりと流れる様に私の肩に手を置いて連れて行こうとするが私はその手をやんわりと退けた。
『済みませんが先約がありますので……』
「そう云う事だ、太宰。ざまァみやがれ」
何時の間にか太宰さんの反対側に居た中也さんは私の腰を引き寄せて太宰さんに向かってドヤ顔した。
それを見た彼が聞いた事も無い様なドスの効いた低い声で「は?」と口元を引き攣らせ乍ら云う……初めて聞いたぞ、そんな声。
後ろの二人も初めて聞く、太宰さんのその声に驚いているのか目を少し見開いて彼の方を見たまま固まっていた。
両者の静かな睨み合いが続く。
誰かが止めようと口を開けば、恐らく喧嘩勃発の合図になってしまう。
それが理解出来た私達は冷や汗をかき乍ら一触即発しかけている二人を見守っていた。
「これ、二人共。此処に来て迄喧嘩は
そこへ
寧ろ仲良く肩を組んでとびきりの笑顔である。
以前、紅葉さんが止めたにも関わらず喧嘩を続けた二人はその後屍の様になっていたのを見た事があった。
「……チッ、仕方が無いね。今回は諦めるとするよ。でも夕方以降は此方側と居る事、之は幹部命令だ。善いね、A?」
『ええ、首領からの命令が無い限り御供させて頂きますね』
それから数分間「じゃあね」と云ったにも関わらずその場から動かない太宰さんを見て中也さんがキレる前に彼は二人に引き摺られて行った。
「却説、青鯖も消えたし行こうぜ!」
先程とは違い、子供らしい純粋な笑顔を浮かべている中也さんは痛くない程度に私の手首を掴み、そして走り出した。
彼は来る前に私と紅葉さんにだけ云っていた事がある。
それは、こうして海で遊ぶのは初めてだから結構楽しみだったんだという事だった。
青春時代を殆ど血と暴力と死の中で過ごしている彼にとってこの企画は屹度と或る夏の日の素敵な思い出として記憶に残るのだろう。
無邪気に笑う中也さんの後ろ姿を見乍ら私は砂に足を取られない様に後を続いた。
245人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒龍(プロフ) - Mさん» 嬉しいお言葉、有難う御座います^^ (2019年11月23日 17時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
M - とてもおもしろかったです。 (2019年11月23日 1時) (レス) id: 5a0fa58d7d (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - りーこさん» 有難う御座います!頑張って続き書いていきますね (2019年6月24日 12時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
りーこ - 続きが楽しみです (2019年6月24日 6時) (レス) id: 140e75a81a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒龍 | 作成日時:2019年6月21日 21時