二度目の人生はあの子が愛した世界で “弐”【文豪ストレイドッグス】 (ページ12)

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伍拾肆 “DEAD APPLE前日譚 (1)” ページ12

ヨコハマ裏社会史上、

最も死体が生産された88日

あらゆる組織を巻き込んで

吹き荒れた血嵐

《龍頭抗争》

───開幕から、61日目の夜

｢ここか｣

『その様ですね』

私は首領から任務を承り、同僚である作之助さんと共に或る宝石店に来ていた。

その宝石店に入ると、私の靴裏でガラスの破片がパキッと砕けた。

ショウケースは残らず割られ、中の宝石どころか飾りの照明灯ごと盗まれていた。

｢犯人を見つけだせと云われても、この惨状ではな……｣

『指紋集めにしろ、ここ迄ガラスが割れていたら一つ手に入れるのにどれだけの時間がかかるやら……先が思いやられますね』

そこはただの宝石店ではなかった。
強大な非合法組織、“GSS”──ゲルハルト・セキユリテヰ・サアビスの金庫だ。
彼等は資金洗浄も兼ねて、ここに資金を保管していた。

今日の夜までは。

……誰が一体どうやって、あの凶悪な傭兵集団GSSが守る宝石屋を襲ったのだろうか？
床に散らばる破片や割られたショウケースに軽く指で触れてみるが、炳五や安吾さんの異能でも無い限り判る事は何も無かった。

私と作之助さんが共に溜息を吐く。
首領もこんな無理難題の任務を、あんな笑顔で｢二人なら必ず成功する、期待しているよ｣なんて、私達が断れない事を知っていて云うのだから……

｢A、破片にはあまり触れない方が善い。怪我するぞ？｣

ずっと破片やショウケースに触れている私を心配そうに作之助さんは見ていた。
そんな彼に手を見せ乍ら少し微笑む。

『気を付けていれば大丈夫ですよ』

未だ何処か納得のいっていない顔をしている作之助さんに苦笑していると、コツコツと私達の物ではない足音が聞こえた。

｢そこにいるのは誰だい？｣

声の主の方を向くと、店奥に続く廊下の手前辺りに長髪の男が立っていた。
髪も肌も服も白いのに対して、真っ赤な瞳が印象的な男だ。
見た目的には青年ぐらいだろうか。

｢おや、遅れて来た泥棒かな？ここにはもう小銭ひとつ残っていないよ｣

『それは見れば判りますよ』

私の返しに彼は｢そうか｣と云いじっくりと此方を観察してきた。
何故だろうか、彼の視線は少し気味が悪い。
……まるで全てを見透かされているみたいだ。

｢誰だ？何故ここにいる？｣

作之助さんは私を庇うかの様に一歩前に出て問うた。