7 ページ7
安心すると、一気に力が抜ける。膝から崩れ落ちそうになる私を、エスカバ先輩が支えた。
「野坂君、良い性格してる」
苦々しい顔をして、エスカバ先輩が言った。
私はというと、張り詰めていたものがプツンと切れたように、だばだば涙が出てきて止まらない。
袖で拭っていると、野坂さんがハンカチを差し出してきた。ありがたく受け取る。
思いっきり鼻をかんだら、とても嫌な顔をされた。
「僕自身も、アレスの天秤には疑問を持っていたんだ。そもそも、そのシステムは人を進化させるのか。システムの管理には限界があるんじゃないか」
土手に座りながら、そんな風に、野坂さんは話した。
「それを、決勝、雷門中との試合で見極める。だから、次の試合は僕にとっての聖戦となるんだ」
「負けたら？」
「アレスには見切りをつけるさ。それでも、僕たちが勝ったなら、アレスの天秤は価値があるものとなるだろう、君たちがなんと言ってもね」
僕らはただ全力を尽くすだけだ、野坂さんはそう言って不敵に笑う。
やはり、自分の信念は曲げない方なんだなあ。
かっこいい、素直にそう思った。
「死ぬつもり無かったなら、どうして、西蔭さんのことを私に？」
「それは」
野坂さんは、言葉を区切り目を伏せる。言いづらそうに、また口を開いた。
「万が一ということを思ってのことさ。さっき君に言ったことは、そのまま本当のことだから」
本当にそう思っているなら重症だな、と私は思う。
西蔭さんは、野坂さんがいなくなったからAでいいや、なんて思えるほど、器用じゃないし、薄くない。
もしも野坂さんがいなくなったら。
西蔭さんは、過去に閉じこもるかもしれないし、もう何も意味がないと全て諦めるかもしれないし、ひょっとしたら自分の手で世界を変えようとするかもしれない。野坂さんの亡霊を探して。
野坂さんが生きる意味が世界を変えることであるように、私にも生きる理由があるように。
西蔭さんが生きていることに意味をつけているのは、野坂さんなのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 59人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マトリックス(プロフ) - ちかさん» コメントありがとうございます！そう言っていただけると嬉しいです！(^o^) (2020年7月28日 16時) (
レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
ちか(プロフ) - 初コメ失礼します！一気に読んでしまいました……すごく好きです。もう本当に好きです！！！！(語彙力) (2020年7月27日 21時) (レス) id: f8911c1a4d (このIDを非表示/違反報告)
神田・スカーレット(プロフ) - なんだろう……この言い表せない気持ち……これからも皆でラーメン食べに行ったりしてほしいですねぇ〜 (2020年3月6日 11時) (レス) id: 89620096b1 (このIDを非表示/違反報告)
マトリックス(プロフ) - Folmoさん» 最後まで読んで下さってありがとうございました！途中更新しない期間もあったのに…と思うと本当に感謝の気持ちでいっぱいです！コメントも嬉しかったです！本当にありがとうございます！！！ (2020年2月27日 22時) (レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
Folmo - 完結…！最後かなりドキドキしながら読んでました。スーパーハピエン…幸せ…投稿お疲れ様でした。本当にいいもの読ませていただきました…！！ (2020年2月27日 4時) (レス) id: eaab8f82b6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マトリックス | 作成日時：2020年2月23日 0時
