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「嬉しすぎて、二人まとめてハグしちゃいそう。()めてくれる?」

 そう言うと、天馬はパッと笑って腕を広げた。

「ハグしていいよ!」
「おい、天馬」
「だってAがしたいって」

 剣城は困った様子で私に視線を向けた。
 私だってわかっている。いくら天使や悪魔に性別の概念がないと言っても、傍から見れば男女の抱擁だ。

「それに、今さらじゃない? 俺たち一緒に住んでるんだよ」

 それもそうである。

 私はタンブラーと抱き枕を一旦置き、天馬と剣城を勢いよく引き寄せた。耳元で天馬のふふ、という穏やかな笑い声と、驚いた剣城が息を飲む音が聞こえる。

「ほんっとにありがとう。すごく幸せだよ」
「俺も、Aの誕生日をお祝いできて嬉しいよ!」

 剣城は何も言わず、ただ私の背にぽん、と手を置いた。

「ハグってなんか良いね」

 天馬がふわふわとした声で呟く。
 離れる直前、最後に二人の背中をぐっと引き寄せた。

「ちよっと眠くなってきたかも」
「俺、そろそろお風呂入れてくるね」

 天馬は立ち上がり、風呂場へ向かった。
 剣城も席を立ち、「今夜のうちにゴミを出してくる」と言った。

「ありがとう。あ、瞬間移動しないでね。防犯カメラに映ると怪しまれるから」
「ああ。お前は休んでろ」

 去り際に微笑まれ、照れくさくなってヒツジの抱き枕を抱きしめた。
 そのうちに、天馬が風呂場から戻ってくる。

「剣城は?」
「ゴミ出してくるって」
「そっか」

 天馬が隣に腰かけた。
 二人が私のために準備をしてくれたことが嬉しくて、何となしに天馬を見つめれば、彼も笑顔を返してくる。

 天使と悪魔と誕生日を過ごしたなんて、母が聞けば何と言うだろう。ありえない、と笑うだろうか。

「お母さんも、天国で見守ってくれてるかな」

 そう呟くと、天馬はひどく驚いた様子で目を見開いた。

「……知らないの?」

 天馬の声が重く響く。
 同意してくれるものだとばかり思っていた私は、その表情に戸惑い、背もたれから身体を起こした。

「……何を?」
「えっと、その……」

 天馬は眉を下げ、視線をうろつかせた。
 だんだんと不安が膨れ上がる。彼は、何を困っているのだろう。何を言おうとしているのだろう。

「言って」

 思ったよりも低い声が出た。
 天馬は何かを決心するように一度深呼吸し、口を開く。

「Aのお母さんは、地獄にいるよ」





to be continued…

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作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm  
作成日時:2022年10月13日 0時

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