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玄関のドアを開けようとすると、部屋の中から「あと十秒待って!」と天馬の声が聞こえた。ゆっくり十秒数えたあと、ドアを開ける。
「A、誕生日おめでとう!」
「わっ!」
天馬の明るい声と共に、軽い破裂音が響く。天馬と剣城が持っているクラッカーから、細かい色紙やカラフルなリボンが飛び出した。少し遅れて火薬の臭いがふわりと漂う。
「びっくりした?」
「びっくりした! クラッカーなんて久しぶりに見たよ」
「こっちも見て!」
天馬は私の手を引っ張り、リビングの中へ連れていく。
テーブルの上にはホットプレートと、その周りにブロッコリーや一口大に切った食パン、ウインナー、きのこなどが並べられている。
「これ何?」
「チーズフォンデュ!」
「チーズフォンデュ?」
驚いて聞き返すと、天馬は「この前、映画観ながら『チーズフォンデュかー、いいなー』って言ってたでしょ?」と得意気に話した。
「言ったけど……家でできるの?」
「剣城が調べてくれたんだ」
「そうなんだ。ありがとう」
「ああ。先に着替えてこい」
「今からチーズを溶かすんだよ!」
「わかった。楽しみ!」
ピザ用のチーズにコーンスターチをまぶす。コンロである程度溶かしたあと耐熱皿に移し、予熱したホットプレートの上にのせた。
焼き目がついたパンを半分ほど浸して持ち上げると、乗り切らなかったチーズが滝を作って耐熱皿に落ちていく。なかなかに刺激的な光景に、思わず生唾を飲み込んだ。
「人間の食生活が堕落するわけだ……」
「堕落!?」
「ごめん、言葉の綾だから気にしないで」
立ち上がりかけた天馬を剣城が手で制した。
熱々のチーズを少し冷まし、おそるおそる口に運ぶ。パン自体には味付けをしていないが、チーズの塩分がほどよく効いていた。
「美味しい!」
「良かった。ね、こっちも焼こうよ」
天馬がホットプレートに材料をひょいひょいとのせていく。
誕生日ぐらい羽目を外しても許されるだろう。私は剣城からチューハイを受け取り、プルタブを手前に倒した。
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作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年10月13日 0時