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「ただいまー」
靴を脱ぎながら言うと、リビングから顔を出した剣城が「遅かったな」と返してきた。天馬も剣城も連絡手段を持っていないので、遅くなるという連絡ができないのが不便である。二人に携帯を持たせる稼ぎは、私にはない。
「駒井さんと話してたの。やっぱり悪魔の仕業じゃなかった」
「そうか。プレゼンはどうだ」
「何とかなる……と思う」
あいまいに笑うと、剣城はもう一度「そうか」と頷いてキッチンへ向かった。夕食をあたため直すらしい。
「そのプレゼンはいつなんだ」
「言ってなかったっけ。私の誕生日」
それを聞いた剣城が眉間に皺を寄せた。
そういえば、資料が進まないだのスライドが終わらないなど愚痴をこぼすことはあっても、日付を言うのを忘れていた。
「遅くなるか?」
「どうだろう……片付けは手伝わなくていいって言われてるし、そこまで遅くはないと思うけど」
「……できるだけ、早く帰ってきてくれ」
剣城らしくない言葉に、驚いて彼を見た。
すると彼はハッとして、ばつが悪そうな表情を浮かべた。言うつもりではなかったのに、思わず口から出てしまった、と言いたげに。
言われなくても、誕生日ぐらい早く帰ろうと思っている。それがわからない剣城ではないだろう。
不思議に思い剣城をじっと見ると、彼は細く息を吐いた。そして、腹を括ったような顔で告げる。
「――天馬が楽しみにしてる」
「ああ、そういうこと」
ならば納得である。この悪魔、真面目な上に天使である天馬を特に気にかけているのだ。下手をすれば私より私の誕生日を楽しみにしている天馬を、悲しませたくないのだろう。
「びっくりした。らしくないこと言うから」
「いいから、早く着替えてこい」
「はいはい」
こっそりにやけながら、私は着替えるために寝室に向かった。
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作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年10月13日 0時