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しばらく、彩花に連絡することができなかった。
一度、彩花の様子が気になりメッセージを送ろうとしたが、彩花の転職を祝った頃まで戻っているトーク画面を見て、その気が失せてしまった。
彩花が数週間の記憶を失ったことで、周りの人間との感覚にずれが生じるのではないかと心配したが、剣城から白竜が後始末を請け負ったと聞かされた。
そして光橋さんは、両想いだったにもかかわらず、彩花を振るよう磯崎に操られていたらしい。悪魔に操られた人間は精神面にダメージを受けるため、こちらも白竜がフォローに回ったという。
何もかも元通りだ――私以外は。
「A、元気ない？」
「そんなことないよ」
心配そうな表情を浮かべる天馬にそう返したものの、仕事をするにも身が入らず、食欲も以前より減っている。このままではいけないとわかっているけれど、気持ちの切り替えがうまくいかない。
「天馬と剣城って、ずっと一緒にいるの？」
たずねてみると、天馬と剣城は顔を見合せた。「大体はね」と、天馬が答える。
「離ればなれになったことはないの？」
「あるよ。仕事の都合とか、ケンカしたときはしばらく会わない」
「しばらくってどれくらい？」
「一番長いときで、七三六年と五十一日」
「七百！？」
あっけらかんと答える天馬に、人間とは時間の感覚がまったく異なるのだということを実感させられる。
「A」
剣城が珍しく、恐る恐ると言った様子で私を呼んだ。
「俺たちには、いくらでも時間がある。だから、七百年ぐらい大したことはない。だが、人間は――お前が思うより、あっという間だ」
彼は丁寧に、言葉を選んで話していた。
「それって事実？」
たずねると、剣城は首をかしげた。私が言っていることの意味がわからないと言った表情に、私は思わず笑みを浮かべた。
「……それとも慰め？」
言うと、剣城は一瞬目を見開いたあと、ふいと顔を背けてキッチンのほうに向かってしまった。
「“好きにしろ”だってさ」
天馬はいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。そして、ソファからぴょんと立ち上がり、「俺も手伝うよ！」と剣城を追いかける。
私は机の上に置いていた携帯を取り出し、メッセージを打ち込んで――消した。そして、画面上部の通話ボタンを押す。
「もしもし？」
電話の向こうから聞こえるのは、紛れもなく私の知っている友達の声だった。
「今度、一緒にご飯行こうよ」
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to be continued…
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
