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「心美は、生まれたときから身体が弱かったの」
槙田さんはぽつりとこぼした。
看護師の足音や話し声、モニターの電子音で溢れる中で、私は彼女の声を聞き漏らさないよう、耳をすませた。
「でも、今年に入ってから、特に調子が悪くて……。どうして、もっと……」
彼女の声は次第に尻すぼみになった。抑えきれなかった涙が、顎を伝う。
「――もっと、丈夫に、生んであげられなかったんだろう」
反射的に「槙田さんのせいじゃないですよ」と返した。それが気休めにもならないとしても、どうしても聞き逃せなかった。
槙田さんは弱々しく首を横に振った。
「それでも、もっと一緒にいてあげるべきだったなって。共働きだったから、心美にはきっと寂しい思いをさせた」
「それは……」
何か言おうとする私を手で制し、彼女は言った。
「私、母親失格ね」
「――そんな、そんなことないです。絶対に」
槙田さん夫婦が共働きなのは、きっと心美ちゃんのためなはずだ。だからこそ槙田さんはいつも定時に帰ることができるよう、毎日忙しそうにしていた。私はそれをこの目で見てきた。
「私の……私の母も働いてました。母子家庭だったので」
言うと、槙田さんは少し驚いた様子だった。「そうだったの」と呟き、丸めていた背を起こした。母子家庭だったということを人に話すのは久しぶりだった。
「小さい頃は……さすがにちょっと寂しかったです。きょうだいもいないので、家でずっと一人で本を読んでました」
同じ本を繰り返し読んでいたため、しまいには作品に出てくる呪文をすべて覚えてしまった。魔法学校からの入学許可証は、まだ来ない。
「でも、寂しいってことは、逆に言えばそれだけ母親に懐いてたってことだと思いますし、それに……」
槙田さんが、続きを促すように、ゆっくりと私を見る。
心美ちゃんが槙田さんに対してどう思っているかなんて、私にはわからない。私にわかるのは――
「槙田さんが心美ちゃんのことを大切に思っているのは、私が知ってます。少なくとも、私から見た槙田さんは、母親失格じゃありません」
静かに私の話を聞いてくれていた槙田さんは、何度か頷いて、それから「ありがとう」と呟いた。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
