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モヤモヤとした心持ちのまま、私は家に帰った。天馬は「送ろうか?」と言ってくれたが、食い気味に断って電車で帰った。
――一番多いのは、魂を天国に案内する仕事だよ。
魂を天国に案内するということは、その人の死に立ち会うということだ。それだけではない、その周りには、その人の死を惜しむ人たちがいる。
ソファで横になり、顔を覆いながら、あー、だか、うー、だか呻いた。
これが彼らの仕事であるという現実が重くのしかかっていた。
物音で目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。緩慢な動きで上体を起こすと、被った覚えのないブランケットがずり落ちた。
「だからついて行くなって言ったんだ」
声のしたほうに目をやると、剣城が冷蔵庫の中を物色していた。最初は遠慮気味だった剣城だが、最近は冷蔵庫のチェックを細かくするようになった。私がまれに、消費期限の切れたものを入れっぱなしにしているからだ。
「……でも、同居人の仕事ぐらい知っておかないと」
剣城は苛立った様子で溜め息をついた。冷蔵庫を閉め、シンクに腕を組んでもたれかかる。
「俺たちを追い出すのか?」
「え?」
ソファの背もたれごしに、剣城と目が合う。彼は私の返事をじっと待っていた。
不思議な表情だ、と思った。「はい」を恐れているわけでも、「いいえ」を期待しているわけでもない――むしろ、「はい」を待っているような気がして、私は咄嗟に首を横に振った。
「確かにショックだったけど……追い出すとか、そういうのは考えなかった」
「……お人好しって言われたことないか?」
剣城は再度ため息をついた。今度は苛立ちではなく、呆れて物も言えないといった様子だった。
「まあ、いい」
言いながら、彼は私の家にある中で一番大きなコップを机に置いた。中身はなみなみ注がれたアイスミルクティーだ。
しかしながら、頼んだ覚えがない。飲み物ぐらい自分で淹れるのに、と思いながらお礼を言うと、剣城は首を横に振った。
「牛乳が明日までだ」
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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年9月11日 15時