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 自動販売機で水を買っていると、背後から「炭酸って何?」と声がした。驚いて振り向くと、天馬が自動販売機を興味深そうに眺めていた。

「天馬! 驚かさないでよ」
「ごめん。でも、炭酸って何?」
「炭酸……炭酸は……」

 いざ問われるとわからないものだ。説明するより体験したほうが早いと判断し、追加でお金を入れてサイダーを買う。
 キャップを捻ると、空気の抜ける音がする。溢れないように気を付けながらペットボトルを渡すと、天馬はおそるおそる一口飲み込んだ。
 刺激に驚いたのか、天馬はくりっとした目を見開いて、大きくまばたきした。

「甘くて、口の中がぱちぱちする」
「おいしい?」
「うん」

 天馬は満足気に微笑んだ。私の家にあるものしか口にしない――人間界の通貨の支給無しで天国から締め出されたので、買い物ができない――天馬にとっては衝撃的だったのだろう。今度はためらいなくサイダーを飲んでいる。

「今日はあの人だけ?」
「ううん。この病院ではあと三人」
「あと三人も!?」

 驚いた私に、天馬はペットボトルのキャップに四苦八苦しながら答えた。

「俺の担当が三人ってだけで、今日この病院で亡くなる人はもっといるよ」

 無事キャップを閉めることができた天馬は、「それじゃあ次に行こうか」と歩き出す。

 彼の後ろ姿を見ながら、私はリノリウムの床から寒気が這い上がってきたような心地でいた。
 病院で亡くなる人は多いだろう。それでも、想像することと、実際に目の前にすることは、まったく違った。
 ――天馬や剣城は、毎日何人もの死者を見ているのだ。私だったら一日も耐えられないだろう。それができるのは、彼らが天使と悪魔だからだ。

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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm  
作成日時:2022年9月11日 15時

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