8人目のバイト！？① (ページ38)

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38-大倉side ページ38

大倉side

突然出てきた知らない名字が、研修生の名前であると理解するのに少し時間がかかり、その後に工藤さんが発した言葉を理解するのにもっと時間がかかった。

大「本当ですか？」

工「今日ジャニーさんに言われたばっかりなんだが…恐らく、もう幹部には伝わってるはずだ。Jr.と一緒に踊らせるらしい。」

大「ダンスだけってことですか？」

工「…あくまで、予定だが。」

まあ、ダンスだけだったらできなくもない…って言いかけて、スタジオの中の彼女の姿を見て、その言葉を飲み込んだ。

ダンスはまだまだ荒削りやし、素人が頑張ってます感がどうしても抜けへん。

汗だくで、メイクもほとんどしてないのに、彼女の瞳は確実に熱を帯びていて。

…不覚にも、綺麗や。なんて思ったりしてた。

大「この子、この世界入ってどれくらいなんですか？」

工「だいたい3ヶ月だ。」

大「3ヶ月でこれくらい踊れれば…」

工「…いや、問題はそこじゃないだろ。」

大「？？？」

工「見たらわかるだろ。」

工藤さんの視線は、彼女を捉えて動かない。俺の頭の中は？マークで埋め尽くされる。

工「ただただ目の前のことしか考えてない。後先のことを考えられないバカだってことだ。」

大「バカって…」

思わず、笑みがこぼれてしまった。いつも冷静沈着な工藤さんがここまで感情をあらわにするのは珍しくて、なんか面白い。

工「努力は確かに大事だが、それだけではこの業界は生きていけない。大倉くんもわかってるだろ？」

なぜか言い訳のように早口で畳み掛ける。その慌てぶりも、また俺の笑いを引き出した。

工「…まあ、とにかく。Aはほぼ素人だ。世間からの逆風も強いし、もしライブに出るのが正式に決まったら、その時はちゃんとフォローしてやってほしいって話だ。

お前のマネージャーも待ってるだろうし、早く帰れ。」

そういうと、工藤さんはエレベーターの横にある階段をすごい速さで駆け下りていった。

俺はこみ上げる笑いをこらえながら、エレベーターのボタンを押す。

彼女は、まだ踊り続けてる。
なんかデビューしたてでがむしゃらだった頃の俺を見てるみたいや。

エレベータが来て、乗り込む。

車に乗っても、家についても、頭の中はAさんのことでいっぱいやった。