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【その他】
《過去》
「物心ついた時から、違和感を抱えてた。それは言いようのない、不安にもよく似ている何かだった。その正体は分からなかったけど、『自分の中には人と違うものがある』＿＿それだけは何となく分かってた。
まだ小さかった頃、お気に入りだったマグカップを落として割った。砕けた破片を見て、しばらく呆然としてたのを今でも覚えてる。俺は、そのマグカップを“割ってしまった”んじゃなく、“割った”んだ＿＿自分の意思で。そんな事をした理由は自分でも分からなかった。俺は確かにそのマグカップを大切にしていて、割れてしまった時も悲しかった……けど、俺は確かに、自分の手でそのマグカップを割ったんだ。落としたっていうよりは、地面に叩きつけたって感じだった。気付いた時には、体が勝手にそうしてたんだ。
それから少し経って、弟のスキュラと遊んでた時の事。外に出て二人で追いかけっこしてたんだ。そしたら、途中でスキュラが転んじゃって。助け起こそうとして近付いた時だった。ふと、地面に倒れてるスキュラの首元に目が向いたんだ。何かがある訳でもないのに、何故かその首元から目が離せなくて……その時、自分の心の中から声が聞こえた。『あの細くて白い首を絞めたら、どんな風に苦しむんだろう』＿＿そう、そんな事を考えてる自分がいる事が信じられなかった。必死でその考えを取り払おうとするのに、手はだんだんとスキュラの首元に伸びていた。
『兄さん』＿＿と、俺を呼ぶスキュラの声でようやく冷静になって、俺は思わずスキュラから後ずさった。その後、心を落ち着かせる為に、跡がつくほど強く手の甲をつねった。
その出来事があってから、ようやく分かったんだ。俺の中にあるものの正体が。俺は生まれつき、どうしようもない破壊衝動を抱えてる。たまにあるんだ……無性に何かを壊したくなる事が。目に見えるものも目に見えないものも、全部ぐちゃぐちゃにして、跡形もなく壊してしまいたい＿＿そんな欲求を今でもずっと抱えてる。理由は分からない。怒りや苛立ちからこういう欲求が出てくる訳じゃないんだ。ただ、どこからともなく湧き出して、ある時、それが抑えきれないくらいに爆発する。幸いにも、この衝動で誰かを傷つけた事はまだないけど……俺は、いつか自分がこの衝動のせいで大切な人を傷つけてしまうのがどうしようもなく怖いんだ。
俺と同じ名前で、『イアソン』っていう英雄がいるんだ。……皮肉だよなぁ、本当に。俺は英雄なんかとは程遠いのに、さ」
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