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六頁 ページ8




────どきり、胸が波打たれたような気がした。


深緑の瞳を不安げに揺らした折原は酷く危うげだった。総てを諦めきったような(くら)い表情を浮かべており、ずっと国木田を見つめている。カチャンと冷めた珈琲の入ったカップを彼女が(デスク)に置く迄、まるで時が止まってしまったかのように国木田は息をすることを忘れていた。

『なァんて、小娘の戯れ言ですよ。お気になさらず』

スッと立ち上がった折原は国木田の分もまだ僅かに珈琲の残るカップを水道で洗い流し片すと、少ない荷物もまとめ出口へと歩を進めた。思わず待てと彼女の細い肩を引くと息を詰めてしまうほど、其の瞳には何も映っていなかった。
ただぼんやりと、あのはじめての折原を目にした時のようにほの暗く。

『私が貴方のことを好きなのも、此処を辞めたくないという気持ちも本当で御座います。ですが私は、貴方が思っているほど綺麗なものではないのです』

「其れは一体……如何いうことだ」

『……幾百、幾千と人を殺めた人間が、そう真っ当に生きれる筈が在りませんもの』

─────きっと、兄様も。

寂しそうにそう呟くと、ついに彼女は国木田に背を向け学館を去っていった。引き留めようと伸ばして空を切った手も虚しいままに。


─────貴方のことが好きだからだと云ったら、如何します?

─────私が貴方のことを好きなのも……


折原の言葉の数々が脳内で反響(リフレイン)する。色恋沙汰に然して興味も示さず、己の手帳に記された理想の女性に出会うべき時に出会うことを人生に組み込んだ国木田にとって、彼女の其の言葉は遠ざけて然るべきものであった筈だ。然し、如何してか聞き逃してはいけないような、そんなような気がして国木田の心に大きな(わだかま)りを作った。


────幾百、幾千と人を殺めた人間が、そう真っ当に生きれる筈が在りませんもの


「一体、お前は何を抱えて生きているのだ…折原」


其の数日後、予言されたように折原は学館へ辞表を提出し二度と此処で教鞭を執ることは無くなった。
楽しそうに授業を受けていた生徒も見る陰なく、詰まらなそうに、果てには居眠りをかく生徒さえ現れるようになった新任の現代文の授業はさめざめとしていて、以前のような活力に満ちた教室も見るとこは無くなった。



そして、横浜には数日もの間、雨が降り続けた。



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 恋愛 , 国木田独歩   
作品ジャンル:恋愛
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綾舞町 - 花夢園さん» 中々無いですよね、彼のお話は(笑)少々書くのが難しいですが彼の格好いい姿を表現できたら、と思いっています!有り難う御座います! (2016年8月4日 20時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
花夢園 - 国木田さんの恋愛ってレアですね〜とっても面白いです! (2016年8月4日 16時) (レス) id: a92783a906 (このIDを非表示/違反報告)
綾舞町 - 百久一目さん» 本当ですか?!有り難うございます!!結構天然な部分の有る子なので……(笑)国木田さんともっとイチャイチャさせるようにしたいです。 (2016年7月1日 17時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
百久一目(プロフ) - 夢主(?)ちゃん、可愛い…(惚) (2016年7月1日 13時) (レス) id: 421761368c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾舞町 | 作成日時:2016年6月12日 18時

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