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『国木田さん、お疲れ様です』

折原とのはじめての会話から数ヶ月間、毎度とはいかないが二人は示し会わせたように学館の事務室で珈琲を一緒に飲むようになった。
珈琲を片手に束の間の安息の時を過ごすのは案外心地のよいもので、何時もより饒舌に国木田は授業の事や生徒の事、話せる範囲での探偵社の話をした。そして折原もまた、そうであった。
彼女が学館へ来て約半年、目下安全だとは到底云えないが其なりに平穏で安全な日々を送れているように思える。然し、心なしか彼女の表情は冴えないものだった。如何かしたかと尋ねれば気まずそうに俯く。

「…人の悩みを聴くのも探偵社員の仕事の内だ。それに、あまり気負っていても解決せんだろう。無理にとは云わないが話してくれないか…?」

国木田の其の言葉に背中を押されたのか、おずおずと不安げに、申し訳なさそうに折原は顔を上げ、聞いてくれますかとの問いに大きく頷くとぽつり言葉を落とした。

『若しかしたら私、此処を辞めるかもしれないのです』

あまりのことに思わず国木田は眉を顰める。
彼女は生徒からも他の教員からも信頼の厚いはずであるし、何かトラブルがあったというような話も耳にしたことはなかった。ならば何か不満でもあるのかと問えばそうではないのだと首を横に振った。

『元々此処は、叔父様が私のために斡旋したいわば社会科見学のような場所なのです』

「……社会科見学…だと?」

『はい』

折原曰く、生まれつきある社会内で生きることを強いられた彼女は幼少期より其の仕事にたずさわっておりあまり外の世界を知らなかったらしい。このまま箱入り娘のままにしておくのも如何なものだろうかと反発があり、渋々といったように叔父によって用意されたのがこの新鶴谷学館だったのだ。

『……でも、私はこのまま此処で働いていたのです。できることならば彼処には戻りたくない』

冷めきってしまった珈琲の入るカップを包み込む手に少し力を込めたのか、黒い水面が波打った。
心から嫌がっていて、でも心なしか諦めているような其の表情は見ている此方が心を痛めてしまうくらいにつらそうである。形の良い唇を歪め、珍しく眉の間に深い溝を作っていた。

「何故、そんなにも本職に戻ることを嫌がるんだ?」


戸惑いつつ、国木田は問うた。
然し折原はまた、諦めたように微笑んだ。



───────貴方のことが好きだからだと云ったら、如何しますか?




深緑が大きく波打った。



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 恋愛 , 国木田独歩   
作品ジャンル:恋愛
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綾舞町 - 花夢園さん» 中々無いですよね、彼のお話は(笑)少々書くのが難しいですが彼の格好いい姿を表現できたら、と思いっています!有り難う御座います! (2016年8月4日 20時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
花夢園 - 国木田さんの恋愛ってレアですね〜とっても面白いです! (2016年8月4日 16時) (レス) id: a92783a906 (このIDを非表示/違反報告)
綾舞町 - 百久一目さん» 本当ですか?!有り難うございます!!結構天然な部分の有る子なので……(笑)国木田さんともっとイチャイチャさせるようにしたいです。 (2016年7月1日 17時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
百久一目(プロフ) - 夢主(?)ちゃん、可愛い…(惚) (2016年7月1日 13時) (レス) id: 421761368c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾舞町 | 作成日時:2016年6月12日 18時

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