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九頁 ページ11




ザァザァと降りしきる雨の中、少女──折原は佇んでいた。
柔らかで艶やかであった癖っ毛は雨水に濡れそぼり宥められ、大人しくなっている。生気の失われた深緑の瞳はぼんやりと、全てを諦めたように酷く虚ろであった。
折原が佇む其処は、横浜租界の貧民街にある骸砦という精密な技巧の光る建造物の足元だ。建設途中のまま放置された其れは薄気味悪いほどに昏く、近寄り難いものである。然し彼女は其処に居た。最期の時を一人で終える為に。
肩を僅かに動かすと手元で鈍い光を放つものがあった。其れは一丁の拳銃であった。
何処からか組織離反の情報が漏洩したのか、それとも"叔父"の采配か、折原は組織に追われる身となっていた。生まれてからずっと、今まで身を置いてきた組織から彼女は懸命に逃げ続けていたのだ。国木田の前から姿を眩ませたあの一ヶ月前から、ずっと。

『扠、そろそろ潮時ですかね…』

カチャりと己の眉間へ其れを宛がう。恐怖なんてものは微塵も無かった。いつ命を散らすかも分からない世界に身を置き、いつ殺されようと覚悟を決めていたから。折原の顔に映るのは少し許の未練だった。
最後に、声が聞けて善かった。出来れば名前を呼んで欲しかったけれど、なんて独りごちて先刻の幾ばくか上擦っていた彼の声を思い出して目を閉じる。もう、終わりにしよう。



────嗚呼、国木田さん

『私に、光を呉れて有難う御座いました』

────いつまでもお慕い申しております



「────ッA!!!!!」



引き金に指を掛けたその時、暖かな体温に全身を包まれる。其れが誰かだなんて考える余地も無く、状況を瞬時に理解した折原は直ぐ様己の体をひねり場所を反転させると、守るように抱き着いてきた男の頭を抱え込み、覆い被さる。途端に身を貫く痛みに呻いた。追っ手の発砲した銃弾が折原の腹を抉ったのだ。直ぐに身を翻し力の入らない右腕を掲げ三発打ち込む。全弾相手の眉間を貫いたことを確認すると、折原は目の前で目を見開き固まる男の頬へ手を添える。べちゃりと赤が引っ付き、其処を汚した。
喘鳴する折原は力無く微笑んで泣きそうになる。こんな終わり、望んでいなかったのに。


『如何して、来てしまったのです、国木田さん』


二人きりの気配の残る足元で、骸砦は、其れでも薄気味悪く雨に晒されていた。




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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 恋愛 , 国木田独歩   
作品ジャンル:恋愛
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綾舞町 - 花夢園さん» 中々無いですよね、彼のお話は(笑)少々書くのが難しいですが彼の格好いい姿を表現できたら、と思いっています!有り難う御座います! (2016年8月4日 20時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
花夢園 - 国木田さんの恋愛ってレアですね〜とっても面白いです! (2016年8月4日 16時) (レス) id: a92783a906 (このIDを非表示/違反報告)
綾舞町 - 百久一目さん» 本当ですか?!有り難うございます!!結構天然な部分の有る子なので……(笑)国木田さんともっとイチャイチャさせるようにしたいです。 (2016年7月1日 17時) (レス) id: a2978e8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
百久一目(プロフ) - 夢主(?)ちゃん、可愛い…(惚) (2016年7月1日 13時) (レス) id: 421761368c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾舞町 | 作成日時:2016年6月12日 18時

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