餌付けしたからもう飼う気でいる ページ1
霧戦翌日の朝、目を覚ましたクロームに経緯を説明して、一緒に家を出ることになった。
「この通りに行けばバス停着くから。忘れ物ない？」
「うん。……あの」
「ん？」
「ゴハン…今日も差し入れするね」
「えっいいのォ！？いやでも、クロームには休んでほしいから、連日甘えるわけには…」
「…お世話になっちゃったから……」
俯いて申し訳なさそうにするクロームを見て、そういえばこの子は無条件の優しさに慣れていないのだと思い出した。自分からするぶんにはいいけど、人からされた親切には何か返さないと居心地が悪いのだろう。
どうしたものか。オレがやりたくてやってることで、クロームに気負わせたくはない。気にしなくていい、なんて言葉で払拭できる考え方でないのはわかる。
今日の差し入れを受け入れて、求められてもいないお節介をこれ以上クロームにしなければいいだけの話。だけなんだけど、それじゃイヤだ。
「…オレはさ、世話を焼かれると妙にムカついちゃうんだよな。もちろん感謝はしてるけど」
「…？」
クロームは世話焼きなところがある。オレに作ってくれた弁当といい、小説版では倒れていた犬に膝枕してやったり、食べ物を用意して届けに行ったりしていた。骸くんが気にかけている人だったから、というのはあるかもしれないが、献身的であることは間違いない。
「恥ずかしいっつーか、胸騒ぎがするっつーか、ありがたいけどやめてほしくて」
「…うん」
「逃げちゃうこともあんだよね。子供扱いとか、弱ってる扱いされんの、ちょっと…嬉しく思っちゃうのがイヤ」
「嬉しい、の？」
「うれしーよ、お弁当も麦チョコも。甘やかされちゃった」
「…そっか」
その一方で、オレと同じように優しさに甘えきれないところもある。未来編で女子ズの歓迎に戸惑っていたし。
「でもやっぱムカつくから、お礼はもうちょっとさせてね」
「え？」
「一晩泊めるくらいじゃ全然返せてない！オレは倍で返すタイプなんで、困るなら甘やかしすぎちゃダメだぜ」
ふふんと笑ってクロームに忠告すると、彼女はまんまるな目をもっとまあるくして瞬きをした。
「…わかった」
今のうちからオレに何かされるのに慣れてもらいたいな、って、思っただけなんだけど。
「ねこちゃん、またね。バイバイ」
ん？と耳を疑う。くるっと身を翻して駆け出したクロームの背を見送り、周囲を見渡しても猫はいない。
首を傾げつつ、修業のために思考を切り替えた。
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作者名：卯月伍 | 作成日時：2024年9月4日 1時
