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「てめぇ、誰だ？」
店から出てきたフィリアの存在を聞いてきたのはは、黒ずくめの男だった。
「あなた達と旅をするもう一人よ」
質問に答えたのは、侑子だった。
フィリアは、軽く会釈し、侑子のもとに歩みよった。
雨が体に当たり、段々服が重くなるのを感じていた。
「って、ふえてるしー！」
白と黒の二つの達磨に耳が生えたような生き物を抱えた四月一日が店から出てきた。
侑子は、四月一日から白い方の生き物を受け取り四人の正面に向き直った。
「この子の名前は、モコナ＝モドキ。モコナがあなた達を異世界へ連れて行くわ」
すると、四月一日のほうに抱えられている、黒モコナが、しゅたっと片手を上げた。
「おい、もう一匹いるじゃねえか。そっち寄こせよ。俺ぁそっちで行く」
黒ずくめの男が、黒モコナを指していった。
「そっちは、通信専用。できることは、こっちのモコナと通信だけ」
そう返した侑子に、黒ずくめの男は、舌打ちした。
それを聞き逃さなかった侑子は、「あら、便利なのよ」と言い返した。
「モコナは、あなた達を異世界に連れて行くけれど、
そこがどんな世界かまでは、コントロールできないわ。
だから、いつ、あなた達の願いがかなうのかは、運次第。
けれど、この世に偶然はない」
侑子の掌にある白モコナが宙に浮きだした。そして、侑子は続けた。
「あるのは必然だけ。あなた達が出会ったのも、また、必然。」
侑子は、少年の方を向いた。
「小狼、あなたの対価は……関係性。
あなたにとって、一番大切なものは、その子との関係。
だから、それをもらうわ」
「それって、どういう……？」
「もし、その子の記憶がすべて戻っても、
あなたとその子は、もう同じ関係には、戻れない。
その子は、あなたにとってなに？」
小狼は、その子をみた。
「幼なじみで……、今、いる国のお姫様で……、俺の……大切な人です」
そう言うと小狼は、その子をギュッと抱いた。
「……そう」
そうつぶやいた侑子の顔は憂いに満ちていた。
「けれど、モコナを受け取るなら、その関係はなくなるわ。
その子の記憶をすべて取り戻せたとしても、
その子の中にあなたに関する過去の記憶だけは、決して戻らない。
それが、あなたの対価」
淡々と話す侑子は、「それでも？」と小狼に問いかけた。
「……行きます」
俯いた小狼は、何かを押し殺した声で言った。そして頭を上げて、侑子をまっすぐ見つめた。
「さくらは、絶対死なせない！」
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作者名：浅葱由希 | 作成日時：2016年3月20日 12時
