いもうと。 【太宰治】

６．かんびなるどく ページ8

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私がちゃんと【いもうと】でいると、彼は私をどろどろに甘やかしてくれる。





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ふわりと優しく微笑まれて。それから砂糖菓子のように甘い香りと吐息に包まれる。このままいればきっと私こそ砂糖菓子になってしまいそうだと、そんなことをあまり働かない頭の隅でぼんやり考えた。


嗚呼ダメだ。こうされてしまうと何も出来ない。彼の甘い香りに包まれたら最期。あらゆる意思は消え失せて、ずっとこうされていたいと思ってしまう。


す、と目を閉じて彼に全てを委ねた。


どくどくと聞こえる胸の鼓動にますます安心感を覚える私はもう立派に彼の【いもうと】なのだろう。思わず自嘲気味な笑みが溢れた。



するり。頰を撫でられる感覚に驚いて、ぱっと目を開ける。同時に視線も上へ向ければ蕩けるような瞳をした彼と目が合った。


彼はその美しい微笑みを更に深めて嬉しそうにまた微笑む。



彼は蛇だ。獲物の身体にじわじわと甘い香りのする毒を侵食させて、最後にはぱくりと食らってしまう。

私はもう手遅れなのだろう。彼の愛情(もうどく)に余すことなく侵されているのだから。



もう、逃げられない。



ゆるゆると私の頰を撫でていた彼の陶器のように白く滑らかな手が顎に添えられ、導かれるように彼と小さな口付けを。






「＿＿良い子だね。」





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