・Circumstances,�� side_Natori. ページ7
三嶋がビールを飲んで続けた。
「俺も倉橋に聞いただけなんであまり正確には覚えてないんですけど、……廊下を歩いてた時ですかね。その患者さんが何か叫びながら走ってきたんです。…腕を振り回してたそうで」
嫌な予感がして、唇を噛み締める。
まさか、……な。
「アイツが来る、アイツが来る、って訳のわからないことを言いながら腕を振り回してて、…その手には、……盗まれたハサミがありました」
嫌な予感が当たった気がして、
喉の辺りにまとわりつく妙に嫌な感じを流すためにごくっと冷酒を飲んだ。
「たまたま倉橋はその時、小さな女の子の患者と歩いてて、
…倉橋がその患者を庇って左腕が、」
「……切られたんですか」
嫌そうな顔をする三嶋の後を引き継いでそう聞いた。
「運も悪くて、医療用のだったんで、思ったよりざっくりいってましたね。……それがトラウマになったみたいで、……。」
その言葉で合点がいった。
今日の現場から帰った後のおかしな雰囲気とか焦点が合わなかったりとか、
……緋山先生が心配してた理由とか。
「だから勧めたんですよ、ER。」
三嶋の声が遠く感じた。
治療中の怪我がトリガーになって、
それがその時のトラウマをもう一度、思い出させる原因になったとしたら──……？
いや、こんなに心配するとか、自分のキャラと違いすぎるだろ
本当は、今すぐ倉橋に会って確認をしたかったけど、さすがにそれはできなかった。
「倉橋は、それが原因で患者と上手く関われなくなってたから。……医者も辞めようとしてたし」
「……マジかよ…」
「でも医者は続けて欲しいし、何よりアイツ頼れるでしょ」
翔北に来たばかりの時、何もできなかった俺らを他所に治療に参加する倉橋の姿を思い出した。
「だから、医者は続けろ、お前は必要な戦力だって説得して」
「……そうですか」
動揺を悟られないように真顔を作る。
「それでER勧めたら、翔北に行くって言い出して。
なんか気になったし、だから俺も翔北にしました」
そう言って笑う三嶋は俺とは根本的に違う人間だ。
「勧めたのは急性期の病院ならあんなことももう起きないんじゃないかって。
実際起きてないなら、良かったですよ」
何も知らないで俺の前で笑ってる。
今、倉橋が怪我したことを言ったらどんな顔するんだろう。
疑問とともに、冷酒を流し込んだ。
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作者名：シェリー | 作成日時：2022年3月2日 0時
