・Awkward side_Natori. ページ4
───
「倉橋、大丈夫ですか？」
スタッフステーションにいると、整形外科のスクラブ姿の男性に急に声をかけられた。
……倉橋、とか気楽に呼んでるけど、こいつなに？
つい、訝しむような目を向けてしまうと笑われた。
「あー、すいませんね。俺、整形外科の三嶋です」
「…あ、そうですか」
……別に、名前聞こうとか思ってねぇけど。
っていうか、名乗られても知らねぇし。
心の中で毒づきながら適当に相づちを打つ。
「で、倉橋どうすか」
倉橋が怪我したって時に限って話しかけてくるコイツ。
……本当は何かあったってこと、わかってんだろ。
「…今日に限って何かあったらしいですね」
あー、思い出した。
コイツ、整形外科のフェローだ。
「……あー、やっぱり」
「なんか知ってるんですか？」
「いやいや、……あいつ、いろいろあったんですよ」
幸か不幸か、そこで俺の携帯が鳴った。
「……すいません」
電話に出て一度、そいつを振り返るけどもうその時にはそいつは歩いて行ってしまった。
倉橋とそいつがどういう関係なのかは、結局わからなかった。
───医局。
医局に戻ると噂の本人、──倉橋がいた。
なにか作業をしている手元に目を落とすと、包帯が巻かれている。
「……おつかれ」
「おう。そっちもな」
顔を上げないでそう言う倉橋。
傷のこと言わない辺り、触れんなってことだろうな。
「……なんか、さっき整形外科のフェローの人が来てたんだけど」
「フェロー……？」
一瞬、不思議そうな顔をしたけどすぐに納得したように頷いた。
「あぁー、三嶋先生ね」
「…たぶん？」
「え？誰かに用事でもあったのかな」
「……さぁ。……藤川先生とかじゃない？」
咄嗟に嘘をついた。
訳が分からない嘘だけど、なんかアイツが倉橋のこと心配してるっていうのが嫌だった。
……それを、こいつが知るのも嫌だった。
自分のことながら、意味がわからない。
「……なぁ」
「ん？」
向かい同士でも、医学書や書類でパンパンな机からは顔が見えない。
若干、右に寄って灰谷と自分の席の間から倉橋を見た。
倉橋もこちらを見ていたらしく、視線が交差した。
「……大丈夫かよ」
「大丈夫だよ」
即答かよ。
フッと笑って顔を背けた倉橋の横顔は、当然大丈夫には見えなかった。
・Hear of her side_Natori.→←・Concern side_Shiraishi.
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作者名：シェリー | 作成日時：2022年3月2日 0時
