【休学】 ページ10
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季節は秋。近頃は『五奇人』が好き勝手していると大多数の生徒が冷ややかな目を向け、学院内の空気は張り詰めている。
『fine』も目立った活動が増えて忙しい毎日だが、英智とAは付き合い始めて半年が経とうとしていた。
後が怖くなるくらいに順調だった。何やら不穏な空気の蔓延るこの秋までは。
「休学?」
英智が乾いた声で聞き返す。原因はAが突然に告げた内容だった。
「仕事が忙しくなってきて、向こう半年はもういっぱいいっぱいなの。急に決めてごめんね」
アイドルとして忙しいのはありがたいことだが、如何せん学校に通いながらでは手に負えなくなってしまった。休学期間についてはまだ目処が立たない。
事務所と教師陣と相談して決めたことだが、英智にはまだ話していなかった。
「Aの活躍は僕も見てるよ。
それにしても、前から人気ではあったけど、本当に手の届かないところまで行っちゃって……」
寂しいなぁ、なんて言いながら英智が柔和に微笑む。それでも公私混同はしない彼がAを引き止めることはなかった。
「なかなか会えなくなっちゃうの、ごめんね」
「謝ることないだろう?Aが仕事に力を入れるのは、僕のようなファンとしては嬉しいことだからね。会えない間は電話でもしよう」
英智の言葉にAが頷く。Aの独断について何と言われるか心配していたのだが、快く応援して送り出してくれたので安堵した。
この時Aは、この調子なら大丈夫だと、これから遠距離恋愛のような付き合い方へ変わることに不安はなかった。
お互いに隠し事はせず、思ったことは素直に伝えていた。どちらかが激情して喧嘩になることもなく、いつも話し合いを重ねてきた。
しかしそれは嵐の前の静けさであり、これから夢ノ咲学院にやってくる動乱の時代によって2人の関係も影響を受けることを、英智もAも危惧していなかった。
「ありがとう。英智も『fine』の活動頑張ってね。体調には気をつけて、無理しないでね」
「今生の別れじゃないだから。心配しなくても、Aに会う前に勝手に死んだりしないよ」
ふふ、と英智はにこやかに微笑んでいるが、言っていることはとても穏やかじゃない。
この天使の微笑みが見られなくなることに少なからず寂しさを抱えたまま、Aは英智に手を振ってその場を離れた。

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天羽モモ(プロフ) - 面白かったです (10月17日 23時) (レス) id: 8c3e9536fe (このIDを非表示/違反報告)
wx667p9bc7(プロフ) - 続き気になる〜 楽しみ (2024年1月16日 20時) (レス) id: 3c68cd38f5 (このIDを非表示/違反報告)
トド(プロフ) - ゆさん» 大変お待たせいたしました!これから更新進めていきますのでお楽しみに! (2023年10月15日 23時) (レス) id: 6ab8a556b3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆ(プロフ) - とても続きが気になります!余裕がある時に執筆いただけたら嬉しいです՞⸝⸝> ̫ <⸝⸝՞ (2023年10月8日 23時) (レス) @page1 id: 11ae07be49 (このIDを非表示/違反報告)
傘(プロフ) - アテネさん» ありがとうございます!前作が完結したらバリバリ進めていきたいと思います (2023年8月31日 21時) (レス) id: 6ab8a556b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トド | 作成日時:2023年8月31日 20時