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サッカーボールを携えて、皆が部室を飛び出していく。最後に出てきた夏未は盛大に溜息をつき、ぼろぼろの部室を振り返った。
｢まだここ使うのね……｣
すると、先程飛び出していったはずの円堂が彼女に駆け寄る。
｢おまえの親父さん、良い奴だよな！｣
｢あ、そう……ありがとう｣
彼はそれだけ言うとすぐさま来た道を引き返していった。どうやらそのためだけに戻ってきたらしい。ゆったりとした足取りで部室から夏未の父……理事長と響木が出てきた。
｢マネージャーを買って出た理由が、よく分かったよ｣
｢……｣
父の言葉に夏未が微笑む。まるで太陽そのもののような円堂を中心とした、素晴らしい仲間たち。誰もが目標のために努力し、誰もが仲間を想い、誰もが固い信念を持っている。そうやって、人は成長していくのだ。
◇
練習のためグラウンドへ向かう雷門イレブンに、教室や廊下の窓から顔を出した生徒たちが声援を送る。グラウンドから追いやられていた頃が嘘みたいだ。
｢ふふ｣
｢ご機嫌だな｣
豪炎寺の言葉にAは満面の笑みを向けた。
｢皆の努力が報われて、色んな人に認められて。最高の気分だよ！｣
｢Aちゃんってほんと俺たちのこと好きだよな〜｣
ふたりのそばを歩いていた土門の声色は若干揶揄を含んでいる。可愛い可愛い仲間たち。大好きで堪らない仲間たち。彼らのサッカーへの想いは、一時の外発的動機づけに左右されるほどヤワなものでは無いと分かっている。しかし、愛する仲間たちが他者から認められるというのは何とも誇らしいものだ。
グラウンドに入る直前、風丸が陸上部の誰かと話しているのが見えた。後輩のようだ。風丸は真面目でしっかりしていて優しいから、後輩に好かれるというのも納得である。
｢どうした？ 風丸｣
｢先に行っててくれ、遅れていくから｣
｢おう！｣
円堂に答える風丸の声は、先程よりもほんの少しトーンが下がっている気がした。
陸上部の後輩とグラウンドから離れていく風丸の後ろ姿をじっと眺める豪炎寺。Aに横からぎゅっと手を握られ、其方に目線を移す。
｢行こ、練習始まるよ｣
｢ああ｣
白魚のような小さくて柔らかいそれを握り返し、踵を返した。何となく話は掴める。風丸は陸上部で、サッカー部には助っ人としていた。しかし、気にしたところで向き合うのはあくまで風丸自身。彼が選択することなのだ。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年9月24日 12時
