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円堂、風丸とは途中で別れ、帰路につく。
「まさか、イナズマイレブンの秘伝書があったとはな」
「ね。しかもあるのは理事長室の金庫……」
自力で手に入れるのはほぼ不可能だ。ここは理事長代理を務める夏未に何とかしていただくのがベストだろう。明日彼女に会いに行くことを決め、いつも通り隣を歩く幼なじみの横顔を見上げた。
「……」
「どうした?」
「えへへ、なんでもない」
視線に気づいた豪炎寺の笑顔が優しくて、幸せな気持ちになる。豪炎寺がこの表情を見せるのは、夕香とAだけだ。その事実が、彼に近い存在だと表しているようで心地好い。
「修也」
「ん?」
「いつもありがとう、だいすき」
「……お前は素直すぎる」
「ちゃんと伝えないで手遅れになったら嫌だもん〜」
ぼんやりと覚えている前世で何故か鮮明に覚えていることは、家族に感謝や愛情を伝えてこなかったということだ。あの頃の自分は、きっと気持ちを曝け出すのを小っ恥ずかしく思っていた。家族を愛していることは、何も恥ずかしいことではないのに。二度と、あんな後悔をするのは御免である。
「……俺を置いて、どこかへ行くのか」
「え? なんで?」
「手遅れになると言った」
「言葉の綾だよ」
急に幼なじみの表情が昏くなり慌てた。強く握られた手が悲鳴を上げる。
「修也、わたしはどこにも行かないから」
「ずっと?」
「うん、ずっと一緒。わたしたち、幼なじみでしょう」
「……そう、だな」
手の力が緩み、ほっと息をついた。豪炎寺は時折、このように変になるときがある。どこにご機嫌スイッチがあるのか知りたいものだ。
「そんなに不安なら指切りしよ」
「……お前が約束を破って勝手にいなくなったら、さっさと連れ戻して部屋に閉じ込める。二度と陽の光は浴びれないと思え」
「こっわ」
「はは」
「ははじゃないんですけど?」
鳥肌が立った。豪炎寺の冗談は分かりづらい。……冗談ですよね?
お前はどうすると聞かれ考える。豪炎寺が約束を破っていなくなったら。
……
そんなの、
「やだ」
「!?」
「修也がいなくなるとか、むり、考えられない、泣く」
「想像で泣くな」
よしよしと宥めてくれる豪炎寺だが、表情はというと何故かにやついている。何をそんなに嬉しそうにしているのか。本当に泣いたら焦るくせに。
「そうか、俺がいなくなったら泣くのか」
「いなくなったらやだよ」
「わかってる」
今度は柔らかく手を握られた。
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おひめ(プロフ) - マナさん» こんばんは。ご質問どうぞ( ⑅ᴗ͈ ᴗ͈)♡ (2022年8月5日 20時) (レス) id: 955601ba91 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - 質問よろしいですか!? (2022年8月5日 18時) (レス) @page21 id: 0955411d0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おひめ | 作成日時:2022年7月28日 19時