【inzm】雷門の天使様２ (ページ25)

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｢二人ともお疲れ様。また明日ね｣
｢お疲れ様です！｣
｢お疲れさま〜｣

　マネージャー三人で共に部室を施錠して振り向くと、豪炎寺が壁に寄りかかって待っていた。

｢あ、修也。待たせてごめんね｣
｢気にするな。帰ろう｣
｢うん！｣

　自分の元に駆け寄ってくるAを、豪炎寺が柔らかい微笑みを浮かべ見つめる。他の人には絶対に見せないだろうそれは、彼女が幼なじみであるからか、それ以上に大切な女の子であるからか。
　当たり前のように手を繋いで歩いていくふたりを見送り、春奈は秋に話しかけた。

｢あのお二人、すっごく良い雰囲気ですよね！｣
｢ふふ、そうね。お互いをとっても大事にしてるのが伝わってくるわ｣

　中学生になると、これまで近い存在だったはずなのに、急に遠くに感じてしまうことも少なくない。ずっと仲の良かった友達と疎遠になることは、同性ですら決して珍しいことでは無いのだ。
　しかし彼らは、お互いの存在の大切さを痛いほどよく理解していた。だから豪炎寺はAに気づかれないようにそっと囲い込んでいるし、AもAで豪炎寺を誰にも奪われないように、しかし本人に悟られぬようにその精神を自分に縛り付けている。否、相手どころか自分ですらその衝動に気づいていない。
　互いの無意識下の思惑は大きく功を奏し、二人の世界で、互いを心の真ん中に留めて日々を生きている。
　これが幼なじみとしての情なのか、拗らせた初恋なのか、それとも恋なんて言葉では表せない"愛"なのか、二人でない者には分からない。一つだけ言えることは、彼らは中学生が抱くにしてはあまりに重すぎる感情を互いに向けているということだ。一方通行ではないのが救いといったところか。

｢豪炎寺くんが転入してきてから、Aが年相応になったと思わない？｣
｢たしかに、人の輪に入るようになりましたよね。前までは何というか、遠くから見守っているイメージが強かったです。まさに手の届かない天使様って感じで｣
｢天使様、かぁ｣

　秋にとってAは、雷門中に入学した頃からずっと一緒にいた親友だ。その容姿と人柄から天使様と呼ばれ、常に優しげな笑顔を浮かべていたが、サッカーもとい円堂に関わっている時だけは、心の底から楽しそうにしていた。今や天使様らしい化けの皮は段々と剥がれてきているけれど、ありのままの彼女は活き活きしていて、とても素敵だと思う。
　秋と春奈は同じ気持ちを共有し、帰路についた。

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