【inzm】雷門の天使様２ (ページ20)

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　夕香の病室に寄り、勝利の報告をして、帰路についたのは空が随分と夜の色を帯びた頃合であった。吹きゆく夜風は微かに冷たく、繋がれた手との温度差が心地好い。
　ご満悦な様子のAがここ数分の沈黙を破り、豪炎寺の顔を覗き込んだ。

｢今日の試合もかっこよかったよ、修也｣
｢そうか｣

　ほんの少しだけ照れくさそうに、それでいて嬉しげに豪炎寺は微笑む。
　今日の試合に勝利したことで、フットボールフロンティアへの道が拓けた。昨年は叶わなかった優勝を、今年こそは雷門の仲間たちと達成する。明確な目標を抱くことができた心は晴れ渡っている。

｢わたし、ちゃんと血液検査も受けることにした｣
｢！？｣

　唐突なAの科白に、豪炎寺は双眸をひん剥いた。あの血嫌いなAが？あの痛いもの嫌いなAが？これ以上ないほど頭が混乱する。しかし、その様を彼女に笑われていることに気づいたので、いつものように頬を引っ張って成敗した。

｢いたたたた｣
｢どういう風の吹き回しだ？あんなに嫌がっていたのに｣
｢んー……ちゃんとぜんぶ検査受けないと、いつまで経っても試合に出れないから｣

　つまり、豪炎寺を含む雷門イレブンと、一刻でも早く共にサッカーがしたいということか。あまりに健気で可愛らしくて、思わず色素の薄いふわふわの頭を撫でる。

｢飴と鞭の切り替えが早いね｣
｢次はデコピンを食らうか？｣
｢食らわない〜｣

　デコピンを阻止したいAに指ごと手を握り込まれた。動かせない。そばにいるようになって十年ほどになるが、いらないところでどんどん賢くなっていくから困ったものである。解放されようと手を捩らせる豪炎寺を無視して、Aは続けた。

｢それに、治ったらまた修也と同じユニフォームを着れるんだよ。楽しみだなぁ｣
｢まるでもう既に治ったような口ぶりだな｣
｢だってどこも苦しくない｣
｢身体は弱いままだが｣
｢いっぱい食べていっぱい寝たら大丈夫！｣
｢食べ過ぎは駄目だぞ｣
｢はーいお母さん｣

　敵のディフェンスを掻い潜るときのごとく隙をついて手の包囲網を抜け、今度こそデコピンを食らわせる。さすがFWと煽てるAの手を強く引いて、家路を急いだ。
　今日の夕食はなんだろう。

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