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円堂を中心に気合いが入るサッカー部は、過酷な練習試合が終わったばかりだというのに河川敷で練習することにしたらしい。
部室でゲームをしていた数日前までと比べると、円堂のサッカーバカが移ったのではないだろうかと疑うほどに劇的な変化だ。
Aは秋と共にタオルやドリンクを準備しながら、ボールが飛び交うフィールドを眺める。秋がサッカー部員を見つめる眼差しは、何とも暖かかった。
「男の子って元気よね。もうあんな風に走り回って」
「ほんとにね」
秋の言葉に頷き、同意を示す。無傷の選手なんて一人もいなかったのに、さっきの今でよく走り回れるものだ。
「ねえ、A」
「ん?」
「Aにとって、円堂くんってどんな存在?」
唐突な質問に、Aは双眸を僅かに見開いた。まじまじと秋を見つめてみるものの、彼女の視線は選手たちから動かない。
首を傾けつつ、答える。
「太陽、かな」
「ふふ、たしかにそうね」
「見ているとつい手助けしたくなるし」
「分かるわ」
「無茶ばかりするけど、何故か安心感もある」
「無茶をするのはAもでしょ」
「秋までそんなこと言うー」
話していると段々楽しくなってきて、振り返った秋と顔を見合わせて笑った。
「そういえば、豪炎寺くんはAの幼なじみって言ってたわよね」
「うん」
「いつ頃から一緒にいるの?」
「…たしか5歳にはなってなかったような……うーん……当たり前のように一緒にいたから、あんまり気にしたことなかったなぁ」
「昔から仲良しなのね」
「多分仲良しな方ではある、と思う」
先程のやり取りで十分仲良しなのが伝わったと頷く秋に、少しだけ照れ臭くなってへらりと笑い返す。
「……ヒーローなの」
「ヒーロー?」
「うん。昔からずっと、修也はわたしのヒーロー」
「そっかぁ」
「精神的にちょっと不安定なところがあって支えたいと思ってはいるけど、基本かっこよくて頼もしいから、つい寄りかかっちゃうことが多いんだ」
「たしかに……豪炎寺くん、今日の試合は頼もしかったわ」
「でしょ?」
この空気が心地好すぎて、言おうと思っていなかったことまで口走ってしまった。しかし、秋は気にした様子もなく穏やかに微笑む。まるで女神様みたいだと思った。
「Aは、豪炎寺くんのことが大切なのね」
「当たり前、唯一無二の幼なじみだもん!」
昔からずっとずっと大好きで、できることならこの先も変わらず一緒に居たい……そんな存在だ。
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作者名:おひめ | 作成日時:2022年7月14日 17時