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「修也、席遠くて残念だったねー」
「……A」
固い表情をしていた豪炎寺の目尻が少しだけ下がる。これは笑えなかった頃の豪炎寺と接している時に何度も見た、彼なりの微笑みだ。
「大丈夫?」
「ああ」
大丈夫かと聞いたところで、豪炎寺はそうでなくても肯定する人間だ。だからといって彼の思いにずかずか踏み込んでいくような勇気はAにはない。
けれど、さっきほんの少しの光が見えたのだ。円堂という、希望の光。彼ならきっと、かけがえのない幼なじみが大切にしてきたものを、その手に取り戻せるようにしてくれる。
人任せ極まりないが、人には向き不向きというものがある。Aは誰かを強引に光に導けるような(例えるならば円堂のような)太陽ではない。だからこれはAの役割ではないのだ。
「今日も病院に行くの?」
「ああ、お前も来るか」
「うん。置いてかないでね」
「置いていくとお前が行方不明になりそうだ」
「さすがにそこまでの方向音痴……かも」
豪炎寺が耐え切れずふ、と笑いを零す。ようやくまともな笑顔を見せた彼に、Aは人知れず安堵した。
「やっぱり笑ってる修也がいちばんかわいい」
「……それは褒めているのか」
「褒めてる褒めてる」
そっぽを向いた豪炎寺の頬を突き、かわいいと連呼すると思いっきり頬を抓られた。
痛い。女の子には優しくしなさい。
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作者名:おひめ | 作成日時:2022年7月14日 17時