甘々な避難場所。２【短編集】

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｢不朽の名作だよねぇ、これ｣


｢そうですね……うぅ、泣いちゃう｣


僕の家にて。


今観ている映画はたしかに不朽の名作で、世界中で愛されている作品なのだか さすがにAちゃんみたく号泣できない。


なぜなら、この映画を見たのはかれこれ18回目だから。



家に来る女の子全員とこの映画を見ていたら、内容も暗記してしまって。


覚えていたほうがむしろ好都合なのだが。



｢うそ、この男の人、彼女さんを庇って……｣



ああ、そろそろか。


クライマックス、見る人全員が涙するシーン。


僕もしんみりした雰囲気を醸し出して 感動してる風を装う。


そして極めつけは、



｢……ん、なんでだろ、泣いてるAちゃん見たらこうしたくなっちゃった｣


｢え、あ｣



ぎゅっと抱きついて 相手のほうもその気にさせる。



やっぱりAちゃんは お酒が抜けないのもあるのか 顔を赤くした。



これはいける。確信した。


手を握っても無反応だったが、ここまでくればもうこっちのものだ。



｢ぁ、どうしよう、私……｣


｢大丈夫、目瞑ってて｣



言い ゆっくりと離れる。


彼女は言われた通り目を瞑っている。



Aちゃんの息遣いを感じながら、顔を少しづつ近づけ、ひとつの目的へと向かう。




お互いの唇が触れるまで あと数ミリだ。



____数ミリなのに、その差はずっと縮まらない。



なんでだ。いつもならこのままキスして 流れでベッドへ誘い込むのに。



なんで、どうして と思っているうちに ひとつの結論にたどり着いた。



____僕は、怖いんだ。



純粋で綺麗なAちゃんを汚すのが、急に怖くなった。


なぜかはわからない。わからないけれど、簡単に汚してはいけないような気がして。



｢……あの、ころ____｣



｢っごめん、今日は帰って。なんか用があったら適当に連絡寄越してくれたらいいから｣



今まで感じたことのない気持ちにも怖くなってしまった。


なんでこの僕がこんなに怖気付いて。



｢私、ころんさんならいいやって……おかしいですよね、すみませんでした｣


やめてくれ。


僕はそんな君が、君が____、




｢好き。好きだから、次会うときはちゃんとする｣



こうして、遊ぼうとした相手を本気で、なんてことは初めてだ。

だからこそ大事にしたいと思ったし、汚すのが僕でいいのかわからなくなった。



もう誰もいなくなったリビングに響いたのは、君への言葉ではなく 自分自身への決意に似たものだった。

初めてが君でよかった。【橙】→←・

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