【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ28)

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あの時、Aが言いかけた言葉をちゃんと聞けていたとしたら。あの時、俺がAを好きだとちゃんと伝えられていたなら、何かが変わっていただろうか。そんなことを今になって考えるけれど、もうそれは過ぎ去った時間であり、もう取り戻せないものだった。当然だ。あれから、10年も経っているのだから。それに、何を伝えたとしても、どんな言葉を聞いたとしても、Aが居なくなることは変わらなかったのだから。そんなことを思ったって仕方がない。けれど、そんなことを思わずにはいられなくて、自分で自分に自嘲してしまった。

こんなにも、今更彼女のことを思い出してこんな気持ちになるなら。彼女のことを忘れられないでいるなら、俺はあの時、彼女の言葉を聞くべきだった。気持ちを打ち明けるべきだった。

…後悔したって、もう遅いのに。
…そう、分かっているはずなのに。

俺はいつの間にか、あの時の場所に立っている。『転校するんだ』とAが告げた、あの場所に。まるで引き寄せられるように…とでも言えたら格好がついたかもしれないが、あの夢を見たせいで、ここに来たくなっただけだった。

あの時、俺が立っていただろう場所に俺は立ってみる。あの頃より身長が伸びて、見える景色が変わったような気がした。大学も近くのところを選んだし、就職先もこの街から通える所にしたため、俺はあの頃と同じ場所で暮らしている。けれど、ここに来たのは、この通りを歩いたのは久しぶりだった。意図してここには訪れなかったから。

いつかはこの場所で、彼女と歩いていたのだ。もう随分と昔のことだけれど。それはまるで、青い幻のような記憶だけれど、それは幻ではなく本当に嘗て、俺の目の前に広がっていた景色なのだ。

…甘やかで、けれど苦い後悔が残っている、所謂青春時代の俺が、ここに居たのだ。

『……ねぇ、沖田くんさ、』

…あの時の彼女の声が、聞こえたような気がしたけれど、それは気のせいで。彼女の言葉の続きを聞くことはもう出来なくて。

坂道から見える、少し高い位置にあるこの場所からは、街並みが見渡せる。そんな街を眺めて、俺は小さく呟いた。それは、ただの独り言だった。

「……好きだったよ、お前のことが」

…俺のそんな言葉は、誰かに届くことはなく、勿論いつかの彼女にも届くことはなく。春の風に吹かれて何処かへと飛んでいった。