【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ23)

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沖田総悟【ピピコ】ページ23

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『…私ね、転校するんだ』

『…は、』

もう十年以上も前の話だ。その言葉を耳にしたときからもう長すぎる時間が経過している。記憶というのは時間が過ぎていくごとに薄れて、いつしか忘れてしまうものだ。あるいは間違ったように覚えていることもある。とても脆くて安定しない。俺はこれまで生きてきて、どれだけのことを忘れてきたのだろう。どれだけのことを間違って記憶しているのだろう。そんなことを考えてみても、忘れたものは忘れたことすら忘れている。間違っているものも間違いだと気付けない。結果として、今現在を信じるしかないのだと思う。そのことに別に悲しむこともなく、更に時間は過ぎ去っていく。淡々と、微かな音をたてながら。

…けれど、その時のことだけは、鮮明に、はっきりと覚えているのだ。

茜色に染まった空気に、夏の終わりのにおい。少しだけ汗ばんだ制服のシャツや、虫の鳴き声も。そして、彼女の言葉と、歩調とその声を。俺は今でも、十年経った今でも覚えていた。

その日はなんとなく、一緒に帰っていたのだ。いつものように学校を終えて、友人と少しだけ駄弁ってから、下駄箱で丁度靴を履き替えていた彼女を見つけて、帰るかと呟いた。

それは今まで何度も重ねてきたことのひとつだと。そう思っていた。明日も、明後日もその先も、当たり前のようにあるものなのだと。それは今にして思えば酷く傲慢な考えだったように思える。俺は、変わらないことを信じていたのだ。

なのに、彼女のその一言で、いつも通りではなくなったのだ。

自転車を押す手に力が入って、俺は足を止めた。Aは俺よりも前を数歩進んでから、立ち止まる。そこは緩やかな坂道だった。見渡せる街並みに見えるいくつもの屋根が、茜色に照らされているのが見える。

『…転校すんのかィ？』

なんとなく、聞き返した。どうしてそんなことを問い掛けたのか。もう答えがわかっていることを質問したのか、その頃の俺は分かっていなかったけれど、大人になってから考えてみると、きっと否定してほしかったのだと思う。『嘘だよ、バカだな』って、そう言って笑ってほしかったのだと思う。それが『事実』として俺に突きつけられることを、恐れていたのだと思う。

けれど、彼女は俺のそんな淡い期待なんて知らずに、背中を向けたまま頷く。

『…するよ、転校するの、私』

…まるで、俺に言い聞かせるように。はたまた、彼女自身に言い聞かせるように、そう言った。