【派生作品】Ion, Princess of the Abyss (ページ5)

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イオンの住むこのランティス王国は、イオンの父が治めている。つまりイオンはランティス王国の王女なのだ。しかしイオンは冷遇されていた。理由としては単純で、イオンは弱かったのだ。

　ランティス王国、特に王族貴族間では魔力の大きさが重要視されている。ランティス王国を支えていると言っても過言ではない光を放つ石柱を魔力でもって管理する事は王族最大の義務であり、それ故に魔力の少なすぎるイオンは冷遇されていた。またイオンは餌を食べるのが下手すぎて同年代の兄弟達と比べて発育不良な点も理由の一つだった。

　そのため宮殿内をイオンが大手を振って泳げるわけもなかった。かといってランティス王国外部まで泳ぎ出る事も認められていなかった。どれほど脆弱であろうとイオンはランティス王国の王女であり、万が一イオンが他の種族との間に子を設けたり、ましてや命を奪われでもすれば王国としての沽券に関わる。結果としてイオンに許されている事と言えば、王国の僻地で餌を食べる事くらいであった。

　イオンは窖の中でじっとしていた。

　石柱の管理が王族の義務である事は上記の通りで、そして時折イオンの兄弟や親類が石柱の点検のためにこの付近を訪れる。彼らの魔力を感じ取ったイオンは、顔を合わせたくないがために窖に籠もる事を選択した。

　身動ぎすると、敷き詰めていた海藻の欠片がふわりと巻き上がる。骨の髪飾りを髪に挿して、磨いた貝殻を鏡代わりに反射する自分の姿を確認しようとする。しかし少々暗すぎて見えづらい。イオンは髪飾りと貝殻を置いて、また身動ぎした。何もやる事がないからか、時間だけがやけにゆったりと進んでいるような気がする。こういう時は考え事をするに限る。

　イオンは腹を擦る。お腹が空いてきた。かといって今出て餌を摂りに行こうとすれば兄弟親類に鉢合わせしてしまうかもしれない。彼らはイオンよりも強い。もし彼らが空腹だったら、食い殺されてしまうかもしれなかった。

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