ページ ページ3
ちょっとしたアクシデントもあったが、小腹は満たされた。食後に訪れる穏やかな心地に、イオンは目を細める。もっとも、こんな開けた場所で無防備に眠るわけにはいかないが。
イオンは下へ下へと潜る。イオンの今いる場所はまだ地上からの光が届く世界だ。イオンが本来いるべき場所、ランティス王国の宮殿は更に海の深くに……地上からの光の届かない海底にある。魔法の石柱だけが光源となった薄暗いその海底宮殿こそ、彼女の家だった。
潜る途中で見る事になるのは、海底都市。
ランティス王国は海溝にある。イオンはその側面を伝うようにして海底へと降下しているのだが、その壁面はランティス王国民の居住区となっているのだ。
居住区とは言っても、明確にそう定義されているわけではない。岩盤に適当に掘られたらしき洞穴に稚魚が群れて身を隠していたり、海綿動物に似た巨大な物体に身体を絡みつけている者もいた。中には何かの皮らしきものにくるまっている者もいる。一様に、ただそこにあるものを使って休んでいるだけといった風情だった。
当たり前の光景だった。宮殿のような、自然物ではない居住空間を持つ事ができるのは王族貴族だけだ。
イオンは特に気にもせずに降りようとして……動きを止める。
洞穴の中で群れていた稚魚の群れ。その群れに成魚が一人、躍り込んだ。響き渡る悲鳴。巻き上がる血の煙幕。その煙幕から稚魚が叫びながら現れる。周囲の成魚がそれを見て、笑いながら生き延びた稚魚を捕まえ始めた。腹を裂かれ内臓を掻き出されている者もいれば、頭を指でぐちゅっと潰される者もいる。
食べるために殺しているわけではなさそうだ。明らかに遊んでいる様子だった。イオンは不快な気分になる。食べもしないのにああして面白半分に殺すなどと。
「
すると彼らは面倒臭そうにイオンを横目で見て、その死骸を一口齧る。これで良いだろうとでも言うように。彼女は何も言えない。言っても無駄なだけだろう。イオンは諦めて、また降り始めた。深く深く、海の底に。
5人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ