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社員証をスキャンして自分のデスクへと向かう。自分の、と言っても私の肩書上与えられているのはほぼ個室であり、高校の教室より少し狭いくらいの空間が私の城の様に佇んでいた。
フロアは真っ暗で、警備ロボットの気配はあれど社員は同フロアにはいないことを察した。自分以外存在しない空間は静かすぎて一瞬耳が遠くなったかのように錯覚するが、私はその静けさが好きで鼻歌交じりに社用パソコンを起動した。本日の業務の最終確認を行い、明日へ向けての準備の為である。正直、久々に後輩に会った喜びを胸に直帰してもよかったのだが、研鑽された人物を見るとこちらも努力したくなるものである。
今回の打ち合わせ、もとい会食では勿論企業として仕事の話を最優先していたが、時折個人的な思い出話も挟んでいた。想定よりも爆豪君は好意的にこちらと向き合ってくれていると感じ取れたのは、学生の時よりも幾分か素直に質問に答えていたからである。
年月は人を変えるのだろうか、素直というよりは、少しだけ雰囲気が柔らかくなったような印象を受けた。それでも鋭い目つきと自動的に刻まれているかのような眉間の皺は変わらず、愛想が良いとまでは言えないのがなんとも彼らしい。1人で仕事中なのにも関わらず、思い出して少し口角が緩んでしまった。
社内データベースのフォルダ内に打ち合わせ内容のデータを入力し、資料のファイルを添付する。これで朝一番に上司が目を通すから、円滑な仕事運びになるだろう。粗方終わって見直す前に凝り固まった肩甲骨を伸ばし、背後の夜景を見下ろした。夜空の星をそのまま落とした様にまばらな光は、きっと私の同士達の努力の結晶なのだろう。高速道路を走る自動車のテールランプが流れ星みたく尾を引いており、テールとはよく言ったものだと温いビールさながらの思考が過った。集中力が切れてきた証拠である。大きく伸びをして再度パソコンに向き合うと、ひと息で確認を済ませて完成データを共有ネットワークフォルダに投げ込み、電源を落とした。
時刻は午後22時半前。まだ終電には余裕で間に合うので、また上機嫌な素振りを隠しもせずに帰り支度を済ませる。ここまで上機嫌である理由には心当たりがあった。これまで1番自分の気を引いた人物が、大事な部分は腐らないまま大人になっていたからである。才ある人物が外的・内的要因でそれを台無しにしてしまう姿は珍しくない。だから私は、爆豪君がそうではなくて心から嬉しかったのである。
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廿楽(プロフ) - むさん» コメントありがとうございます。お褒めいただけて嬉しいです！応援も大変励みになっております。頑張ります！ (2021年10月18日 1時) (
レス) @page21 id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
む(プロフ) - コメント失礼します、とても面白くて続きが待ち遠しいです！文章がとても好きです。これからも頑張ってください、応援しています！ (2021年10月17日 20時) (レス) @page4 id: e0a285cdcb (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - いくまさん» コメントありがとうございます。大変励みになります！文章の表現諸々を好みと言っていただけて嬉しい限りです。遅筆ではございますができる限り更新したいと思いますので、これからもどうかよろしくお願い致します。 (2021年9月21日 18時) (レス) id: d79b86d8d5 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - コメント失礼します。作者様の作品、全て読ませて頂いております。文章の書き方、構成、表現が全て私の好みに当てはまっており毎回の更新とても楽しみにしています。これからも更新諸々頑張って下さい。応援しています。 (2021年9月21日 11時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2021年8月26日 4時
