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無恥に焦ぐ (嘴平伊之助) ページ10

「おい!A!あのびらびら飛んでやがるさかななんだ!」
「あれはね〜、鯉幟だよ。もう春かぁ」
「フハハ!なんだあれー!」

ねえ、伊之助。私、全部貴男に教えてあげられるんだと思ってたの。貴男の知らないもの、全て、私が。傲慢だったかな、欲張り過ぎたかな。貴男の世界を私が色付けてあげられると、信じて疑わなかったから。今はもう、なにも聞いてくれないのかな。

.

伊之助とは幼い頃に里の畑を荒らしていた犯人として捕まっていた時に初めて出会った。荒々しくて乱暴な猪の被り物。その下から出てきたのはきらきらした眩い青白橡色で、私眩暈がしたの。なんて奇麗な瞳なんだろう。その時は言葉を交わさなかったけれど、私が里の子と喧嘩して泣いていた時は話を聞いてくれた。その後に私が縛られていた貴男を逃がしてこっ酷く叱られたけど、そんなことどうも思わなかった。ただ、眠る前にちりちりと目蓋の裏に焼き付いた貴男の眼光が離れなかった。そんな、苛烈で記憶を蝕む、もえるような初恋。

私の里が一晩で鬼に食い尽くされて、眠れなくて散歩に行っていた私だけが生き残った。泣きっ放しの私は鬼を倒しに来たあの猪の被り物を見て思わず涙が止まってしまった。案の定伊之助は私のことを覚えていなかったけれど、俯いて涙を零す私の傍にいてくれた。そこに言葉はなかったのに、別に居心地が悪くはなかった。それから私は藤の家紋の家に引き取られて、時々立ち寄る伊之助と会う様になった。その度に知らないものを見かけると尋ねてくる伊之助との時間が、永遠に続けばいいのに。そんな浅ましい私の強欲をお天道様は見ていたのかも知れない。私、貴男が出会うこの世界の全てを教えたかったの。貴男の手を引く存在でありたかった、ずっと。

「アオイちゃんとこにいるんだ」

包帯を巻かせて頂いていた何気ない善逸さんの言葉に脳に強い衝撃を与えられた。確かに最近伊之助が来ることが少なくなっていたから、はっきりした理由を垣間見て腑に落ちてしまった。私、貴男にこの世界の全てを教えたいなんて言ったけど、嘘じゃないけれどほんとうは少し違うの。貴男が私のそうだった様に、貴男の初恋になりたかった。貴男が初めて抱く淡い奇麗な恋情を知るのが、行先が、私であればいいと思った。なんて意地汚い、私。変なところで鋭いから気付かれちゃったのかな。貴男だけは知らないでいてよ、こんな醜い私なんか。

(分かりたくない、わかったら、解ってしまったらなくしてしまうから)

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作者名:con x他1人 | 作成日時:2020年1月30日 17時

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