【実況者】本当の君。 (ページ19)

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「お、じゃまします…。」
「はい、いらっしゃい。あ、これ使って。」

目の前に出された黒いシンプルなスリッパに、お礼を言いながら足を突っ掛ける。
どうしてこうなった、と心の中で自問自答しつつ彼の背を追いかけた。

「アクションは苦手なんだっけ？今日はマリカーとかにしとく？」
「あ、え、はい！」
「わかった、今Switch持ってくるからちょっと待ってて。」

ソファに座らされて、キヨさんがリビングを出て行く。
一気に静かになった部屋に、私の心臓の音が響いているような気がして細く長く息を吐いた。
どうしよう、だなんて思うほどには混乱している。

彼はそれなりに知名度があるような人なのに、こんなにホイホイと人を家にあげていいのだろうか？
…出会ってすぐに、人を家にあげてしまうような人なんだろうか。

そこまで考えて、ずきずきと心臓が痛むのを感じた。
これ以上考えるのは危険だと漠然と思う。
バックを足下に下ろして、スマホで明日の仕事の予定を確認する。

「お待たせ、飲み物お茶でもいい？」
「あ、お構いなく…！」
「じゃあ、Aさんは飲み物注いどいてくれる？その内に俺繋いじゃうわ。」
「はい。」

お茶のペットボトルを受け取って二つのマグカップに注ぐ。
カラカラと入っている氷が涼しい音を立てた。

「はい、コントローラー。マリカーはやったことある？」
「…遠い昔に家族で何度か。確かWiiだったかな…？」
「完全初心者ってわけじゃないのか。うーん、とりあえず簡単めなコースで走ってみよ！」

テレビ画面の前のソファに並んで座る。
ぴったりくっついて座っているわけではないけれど、隣に男の人の体温があることにどこか座りが悪い。
手に持つコントローラーが、手汗によって湿ってしまわないか心配だった。

「俺ここ超速いよ！」
「周回負けはしないように頑張ります。」
「そんな緊張しなくて良いんだって！ゲームは楽しんでなんぼでしょ！」

ちら、とさりげなく彼を盗み見る。
テレビ画面を見ている横顔は本当に楽しそうで、子どもみたいに煌めいていた。

…ああ、たしかにこの人を見てると元気出るなぁ。
嫌なこと、片っ端から忘れられそうだ。

最近見た彼の動画のコメントに、内心同意しながらテレビ画面に視線を戻した。