【実況者】本当の君。 (ページ17)

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「…勘違い、なら仕方がないよね。」
「…はい、すみません。ですので、本日は他の予定が入ってまして。」
「明日は…部長の付き添いなんだよね？」
「そうなると思われます。」
「じゃあ、金曜空けといてよ。飲みに行こう。」

ジリジリと距離を縮めてくる軍司さんは、断るわけがないよねと圧をかけてくる。
行きたくない、という感情論でどうにかなるとはもとより思っていない。
ため息を飲み込んで、頷いた。

「部長のお誘いを無いようでしたら、ぜひ。」

そう言って頭を下げて、もう一度お疲れ様でしたと踵を返した。
外に出てやっと彼と離れられたと息を吐く。

「大丈夫だった？」

そんな私に話しかけたのは、先週に約束をしたキヨさんだった。
会社前の花壇に寄りかかっていた彼は、少し険しい表情を浮かべていた。
遅れて怒らせてしまったのかと駆け寄る。

「ごめんなさい、お待たせしました！」
「それは全然良いんだけど…あの男、この間のやつでしょ？」

会社のエントランスはガラス張りなので、私が絡まれていたのが見えていたのだろう。
部外者は入れないし、どうやら心配していただいてしまったようだ。

「ちょっと部長のお誘いを断ったら、引き止められてしまって。」
「……歩きながら聞くわ。電車使うけど大丈夫？」
「あ、はい。Suicaも持ってるので、大丈夫です。」
「そっか、行こ。」

キヨさんは、ジッとどこかを見つめてから私の腰に手を回した。
この間送ってもらった時とは違う、密着度の高いエスコートに思わず彼を見上げる。

「…あ、の…？」
「ごめん、嫌かもしんないけどちょっと我慢して。アイツ、見てんだよずっと。」
「…あ、軍司さんが？」
「ああ、そんな名前だったっけ。今こっち見てた…マジでAさん気をつけて。」
「ぅ、ん…気をつけます。」

ぴたりとくっついたキヨさんから香る、男性らしい香りに戸惑う。
高校生の時にちょっとした事件がきっかけで男の人と触れ合う事を避けてきた私には、ハードルが高い。
変な冷や汗をかいてしまっている事に、どうか彼が気づかないように祈る。

そんなことに必死になっていた私は、気づいていなかった。

先週軍司さんに腰を抱かれた時はゾッとして早く離れたいと思っていたのに、今はその不快感がないことに。
どういう意味を持つのか、頬が熱を持ってしまったことに。
彼の香りに、安堵の気持ちを抱いてしまったことに。