13話 縋るもの ページ42
裸足のまま飛び出して走り続けてきたAはようやく足を止めた。
スタミナが尽きたのだ。
手を膝に置いて全身で呼吸する。
自信があった訳ではなかった。
店にいた頃は、そういうことが好きでそういうことが目当てで来る人しか自分の所に来なかったから。
それはわかっていたつもりだった。
誘っていた訳ではなかった。
布団を跳ね飛ばしてしまったのは、決してあの金髪の少年をベッドに誘き寄せるためにした訳ではなかった。
それでも。
拒まれた。
受け入れてもらえなかった。
これまでの自分の在り方を全部、否定された。
ショックだった。
自分の唯一の拠り所を破壊された気分だった。
ああほらやっぱり、こんな自分を愛してくれる人なんてどこにもいない。
いつの頃からそう思うようになったかはわからない、それすら思い出せない程昔からある確信めいた感情。
それがまた一回り大きくなったのをAは感じていた。
自分なんかに人に愛される何かなどない。
自分は人に愛されない。
この穢れた体を差し出すことでしか誰からも見てもらえない、触れてもらえない
誰からも。
マーカスの顔がふと浮かんだ。
こんな自分に優しくしてくれた彼はもういない。
だって彼を死なせてしまったのは僕自身だ──。
彼だけだった。
彼はここにはいない。
誰もAを慰め、歪み固まったその考えを甘やかに溶かし正してくれない。
涙が静かに零れた。
Aがもっと愚かだったなら、泣き喚いて自らの命を絶ちに走り出していたかもしれない。
しかし彼は聡明だった。
故に、頭がおかしくなりそうな程の悲しみにただ抗うしかできなかった。
「だれか……」
誰でもいいから、今だけでいいから仮初の愛と抱擁で自分の心を満たしてくれないか。
そうしてくれないと、張り裂けた心の中身が溢れて落ちて何もかも無くなってしまうから。
耐えられない。
誰でもいい。
男でも女でも子供でも年寄りでも変態でも朴念仁でも誰でもいい。
でも嘘は嫌だ。
心の底からの求愛でないとこの傷は塞げない。
Aは右目を覆っていた眼帯を千切り捨てた。
建物から漏れ出る灯りを受け、煌々と揺らめく赤い瞳が虚ろに辺りを見回す。
そんな幽鬼のような視線が一人の男を絡めとった。
Aは迷わずそちらへ足を向けた。
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あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます!とっっっっっっっても嬉しいです!!!続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います!あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります! (2021年3月25日 23時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫((うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします! (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫((うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます!あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします! (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あああああ | 作成日時:2019年4月21日 20時