10話 喧騒 ページ30
「……そろそろ人間共の飯時というやつか」
二人は無事に国境を越え、街を取り囲む壁の中一際大きな噴水のある広場でアスールがそう呟いた。
竜の鋭い感覚がAの腹が出した空腹の訴えを拾ったのだ。
生命を脅かされる危険が去り、ようやく生理的欲求が顔を覗かせるようになったのだろう。Aは恥ずかしそうにしているが、良い事だとアスールは思った。
「ふむ、しかし……獣でも狩ってくる訳にはいかないか……」
どこか適当な店へ入りたいところだが、生憎二人は無一文であった。
「そっか……」
それに気付いたAは目にかかっていた髪を耳へかけると、適当に近くを歩いていた男へ声をかける。
男は小柄で、Aよりもおよそ人の頭半分程低いと思われる。雑に切られたエネルギーすら感じさせる力強い色の金髪は長く、その毛先は彼の背中まで届いている。
頭部には黒く細い布がぐるぐるに巻かれており、その隙間からは癖のついた金髪が跳ねている。
上半身には衣類を一切身に着けておらず、健康的に焼かれた肌に白く彫られた竜が肩口から前腕部へと走っているのが特徴的だ。
他に目を引くものといえばその両拳に着けられた暴力的な拳甲だろうか。
「すみません、ちょっといいですか」
肩を叩かれ振り向いた男はAの顔を見るとその大きな目をさらに見開き、小さな瞳が動かなくなる。
見たな──
Aはその体でもって金を稼ごうと目論んでいる。
彼にとってできることはそれしかない、と思い込んでいるためだ。
「ちょっと僕と──」
「俺達は今街についたばかりで金がないんだが、何かいい儲け話を知らないか?」
しかしそのような事はアスールが許さない。
庇護対象に無理をさせることは本意ではないのだ。
話を遮られたAはただ無言で後ろの長身へゆるりと首をめぐらせた。
「え?あ、ああ……そうだな……」
男はアスールを観察した。
その恵まれた体格、それを包む一級品の防具。
悪くない。
「今からそこのコロシアムで闘技会が開かれるんだけど、それに出たらどうだ?優勝すれば即大金が貰えるって話だぜ」
男が親指で指す方を見ると、一際大きな石造りの建物があった。
近くの家々と比較するとかなりの人数を収容できそうだ。
「ふむ、組まれたスケジュールがあるだろう。それだと俺が金を得るまでに時間がかかりそうだな」
何せAはいつからまともに食べていないのかわからない。
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あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます!とっっっっっっっても嬉しいです!!!続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います!あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります! (2021年3月25日 23時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫((うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします! (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫((うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます!あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします! (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あああああ | 作成日時:2019年4月21日 20時