【男主】熟れた赤い果実の様に

5話　狩りを為せ ページ16

「紫髪のガキだけは逃すなよ！他は殺しても構わん！」


「あいつさえゲットできればいくらでも立て直せるんだ！」





男達がAを奪わんと集まってくる。

Aの右目に魅せられた者は強い中毒状態に陥り日常生活に支障をきたす程のめり込んでいた。
彼を抱けるなら金に糸目はつけないと言う貴族も少なくなかったのだ。


マーカスはおぞましさに身を震わせる。




「ごめん……僕はいいから、逃げて」




腕の中の彼が呟く。

走っている振動でわかりづらいが、その華奢な体は微かに震えていた。

あんな酷い目に遭ってきて尚気丈に気高く生きてきた彼は今何を思っているのだろうか。


少しでも気を抜くと彼がするりと水のようにこの手から逃れていってしまいそうで、強く胸に引き寄せる。




「絶対に、何とかしてみせます……私を信じてください」





滴る汗が目に入ってきて視界がぼやけるが、前方に崖があることは慣れた夜目で朧げに確認できた。





「おい！何をするつもりだあの小僧！」





マーカスは勢いを上げ、空中へと飛び出した。


浮遊感に驚いたAが首にしがみついてきて、こんな状況だというのに愛おしさが込み上げてくる。

上の方で男達が目を剥いているが、何もマーカスは逃げられないと悟り心中を諮った訳ではない。




「大丈夫ですよ」




星の引力に誘われるがままに、固く抱きしめ合う二人はぐんぐんと地面へと滑空していく。

マーカスは腰に佩いていた短剣を引き抜き力を込めた。


するとどこからともなく旋風が巻き起こり二人へ向かって吹き上げる。

マーカスが、短剣に込められた風の魔法を己の魔力を媒介にして起動させたのだ。


そうして地に叩きつけられることなく無事に着陸したのだった。



しかし万事が上手くいくということは往々にして有り得ない。



魔法も万能ではないのだ。

人一人抱えて二m上空から落下したマーカスの片脚が折れてしまっていた。




「マーカス……！大丈夫？！ごめん、僕のせいで、ごめん……どうしよう」


「貴方のせいなんかではありませんよ、それよりもAは大丈夫ですか？先程の矢傷を手当しないと」




陽が昇らないことには詳しくわからないが、今いる場所は山の中腹よりは下った所だろうか。

崖から飛び降りたことでかなりの距離を稼げたはずだが男達は諦めてくれるだろうか。

何にせよこのままでは動けない。







「あ、マーカスあそこ……」

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