本能(ymin)

＊ ページ34

そして、とうとうお泊まりの日。
おれの家にやまだが来て、ご飯作ってくれて、たくさんお喋りしたり、ほんの少しお酒飲んだり。
正直、内容とかは全然覚えてなかった。
これから計画していることを考えて、もう緊張して心臓が口から出そうになってた。


お風呂には、やまだに先に入ってもらった。
それで、寝室でおれのこと、待っててもらってて。
おれも、お風呂に入ってから、この日のために用意してたものを着たり、つけたりして。
もうすぐ、日付も変わる。


覚悟は、してきた。
よし、よし、がんばろう、うん。
やまだなら、たぶん、引かないで応えてくれる、はず。


コンコンッ。


「伊野尾ちゃん？」
「ッ、あ、あの……やまだ」
「何？ノックなんかして。
早く入っておいで？」
「う、うん……あの、その前に……目、瞑っててくれない……？」
「目……？」


ドア越しに、そう言えば。
やまだは、半信半疑な声で、だけど、いいよ、と答えてくれた。
そのやまだのことを信じて、そっと、ドアを開ける。
やまだは、ベッドに腰掛けて、ちゃんと目を閉じてくれていた。


「伊野尾ちゃーん、まだー？」
「ま、待って……！」


ドアを閉めて、近づく前に、部屋の電気を消した。
だって、こんなの恥ずかしい。
意を決して、やまだに近づくけど、正面からはホントに恥ずかしいから、後ろに回る。
ベッドの上に膝立ちでそっと上がると、ギシ、と軋む音がした。


「っ？伊野尾ちゃん……？」


その背中に抱き着いて、やまだのお腹の前に手を回した。
すると、驚いたやまだが、え？と声を零して目を開けてしまった。
こちらを向こうとしてるけど、ぎゅうっと抱きしめてなるべく向けないように阻止。
やまだの首筋に顔を乗せて、小さく呟くように言う。


「ね……今日、あの、ハロウィンだからね？」
「あれ、電気、や、え？う、うん？
あの伊野尾ちゃん、顔見せてほし……」
「トリック、オア、トリート……お菓子、くれないなら……イタズラして、いい？」


この状態で、やまだがお菓子なんか持ってるわけないから。
そう聞けば、やまだは固まって、息を呑んで。
最初はたぶん照れてたんだけど、やまだはすぐに立ち直って、おれの手の上に自分の手を添えてきた。


「……イタズラ、してくれんの？」
「っ、する……」


目の前の、やまだの、綺麗な首筋に。
いつもやまだがするみたいに、唇を寄せた。

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す