【d!】恋文は破り捨てて。【gr】 (ページ8)

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「ようこそ、遥々お越しいただきまして、誠に有り難く存じます」

『こちらこそ、お招きいただき感謝します、先日のパーティーにもお越しいただきまして、光栄な限りでございます』

「では、話はこちらでゆっくりと」

用意された紅茶の香りが、鼻を心地よく掠めた。
確か、この外交官はこの前のパーティーで来ていた。
護衛というよりは挨拶回りとして来ていたのか。
Aが座った所で、僕も案内通りに座り、我々国の外交官であるオスマンさんと、同じ書記長であるトントンさんが向かい合うようにして座った。
兵士がいないのは可笑しいと思っていたが、微かにもう1人、誰かの視線を感じる。
恐らく、隠し通路でもあるんだろう。

「3人いる、1人は護衛だと思うけど」

『わかった』

随分と警戒されているようだ。
まだ外交今回が初めてで、話したのもこの前のパーティー以来機会がなかった。
こちらをここまで怪しむ理由は見当たらない。
接点がない分、この厳重な警戒は、我々を最初から信用しないと言う、挑発、煽りでしかない。
ならば、こちらだって相応の警戒をしても仕方ないだろう。
もう1人の護衛が、本当にこの国の人間で、善悪の判断ができる人物なのかは、顔も見えなきゃ何もわからないのだから。

「今回はこちらからの急な外交を承諾していただき申し訳ありません、実はですね…」

「その前に、１つお聞きしてもいいでしょうか」

「ええ、どうなされましたか」

「そちらの総統様は、外交であるにも関わらず、どうして席を外していらっしゃるのか、お教え願いますか」

そちらが挑発してくると言うのなら、こちらもそれなりの挑発は返してやろうじゃないか。
それに、これはただの疑問でもあり、侮辱でもある。
Aからの視線が痛いが、ほとんど初対面の状況でこれは酷すぎるんじゃないだろうか。
いくら警戒をしていれど、これほどあからさまに、自国の総統の声すらも出さないとは。
こっちは、まともな護衛なしに、無防備な状態で外交に向かってきたと言うのに。

「あぁ…申し訳ありません、今どうしても手が離せない用がありまして…」

「急とはいえ、1週間前から決まっていた外交を放っておく程のですか」

『…ぴくと、もういい』

びりっ、とした空気を感じ、その言葉にゆっくりと視線を向ければ、それはもう、地獄を見たかのような冷たい目だった。
いつかの日に見た、冷めた目だった。