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これでも、私は姉達には感謝しているのだ。
あの人達のように、両親の愛を履き違え、甘えとして受け取らずに済んだのだから。
私には甘味だけでは少し口が肥えてしまう。
そんな私の口を、貴女達のおかげで塩気たっぷりの涙でリセットできたのだから。
「それが本音なのかな」
『さあ、憎くもあり、愛しくもあるのだが、それが本当にその名前と同じ感情なのか、私には、どうしてもわからないんだ』
「別に、何も僕はAの人格までも否定しているわけではないんだよ、誰かを愛することは、その人の意思関係ない、自然現象みたいなものなんだから」
『だからと言って、お前は私が自身のことを優先するとでも思うのか』
「…あの人の喋り方にそっくりだ、でも」
2人で煽っていた酒のグラスをぴくとは置いて、私の頰をするりと撫でた。
随分と酔っているらしい。
近づく顔に、抵抗を見せずにいれば、顔を顰めて、ため息を吐かれた。
「あの人よりも、断然頑固だ」
『光栄ね、私は夢を叶えられそうだ』
「あの人の言葉を忘れないで、本当の愛を唯一理解できた娘なんだ、愛を押し殺して生きるなんて、死んでもして欲しくない」
『…何度も言わせるな、女は捨てた、この愛だって、本来はあってもいけないし、気付いてすらいけなかった』
悲しそうに、何かに耐えるぴくとを見ていられなくて、目を逸らし、窓の外に浮かぶ月を眺めた。
でも、この愛を知らなければ、いずれ後悔することがあったのだろうと思う。
分かることなんて少ないのだから、過ぎたことは、きっと未来を照らすものだと勝手に思い込んでいれば、吉なのだ。
『でも、後悔はしてないから、大丈夫』
酒に酔っているから。
そういうことにしておいてほしい。
久しく会った姉と、父の記憶とが積み重なって、少し疲れただけだと、どうか見逃してくれないか。
ぴくと、お前が驚きながらも、嫉妬に満ちた顔をする理由は、見ぬふりをしてもいいだろうか。
「…本当に、月が、綺麗ですね」
『……私には、月すら見えないみたいだよ』
返し言葉にしては拙くて最低で、本来伝わるはずはないその言葉を、また彼はわかってしまったみたいで。
悲しげに笑って、静かに私の頰に伝う涙を拭った。
君は馬鹿だな。
こんな大馬鹿に愛を捧いだ君は、何処までも馬鹿だ。
『…ぴくと、君にだけ言うよ』
それでも、最期まで私に付いてくる君は、何処までも救いがない。
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年8月9日 12時