オレとオマエ、睨み合い中。【青】 (ページ11)

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叫び声とほぼ同時に、自分の鼻の下に生ぬるいものが流れ出すのを感じ、私がその流出をせき止めようとするより早く、床にポタポタと赤い雫が落ちた。

「うっひゃあ、鼻血！」

甲高い声だった。

さっき私を呼んだのと同じやつ…この鼻血の根本的原因を作った張本人、つまりこの男こそが"渡辺翔太"だったのだ。

やたら楽しげな調子の翔太に怒りを覚えたのを、今でも覚えている。

担任の女性教師がスイカのビーチボールを片手で掴み、「こら！いつまで夏休み気分でいるの！」と呆れながら叱ったが、彼は反省の様子もなくケラケラ笑い出す始末だ。

かくして、この中学校に来て最初のあだ名が"ハナヂ"という、十三歳の思春期であるガラスのハートにとって大変屈辱的なものに決まってしまったのである。

反論を試みるにしても、騒ぎ立ててれば転校早々一悶着である。

心の中で呪詛を唱えながらも、当面あだ名を甘受せざるを得なかった。

おかげさまで、私史上一番友達がいた時期だったのではないだろうか。

ちなみにこのあだ名は、数ヶ月で自然消滅した。

なぜビーチボールをぶつけたのか問い詰められた彼は、

渡「え、なんか、盛り上げようと思って」

と、きょとんとした顔で答えていた。

その後から、私の中学校生活は大きく変化する。

今までの私は、目立ちすぎず"The･普通"を演じて…いわゆる"モブ"であった。

しかし、この自己紹介の一件で、渡辺翔太と大いに関わることとなった。

渡「おいお前っ！Aつったよな？」

『………はい…そうですけど…』

渡「まぁまぁ、さっきのは悪かったって！機嫌治せよ～～」

『他人の前で鼻血垂らして、最悪の初日ですよ！！機嫌良くなると思いますか？』

渡「他人ってお前、冷たいなぁ。俺がお前の最初の友達な！！」

といって、彼は漫画のように手を差し伸べる。

『…はぁ、……まぁ、お願いします…』

手は握らず、予習へと目を移した。

「へぇ、まだ中一なのにもう連立方程式やってるの？」

そう言って前の席から話しかけてきたのが、阿部ちゃんだった。

『あ、えっと…まぁ。』

渡「れ、れんり…？」

阿「頭いいんだ。すごいね」

『いやいや、言うほどですよ』

渡「お前頭いいの！？なぁー、俺にも勉強教えて！」

『えぇ…』

この頃の翔太はやたらとハイテンションで、とにかくクラスの中心って感じだった。