夢小説【スタマイ】 (ページ7)

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嘘【今大路峻】ページ7

※ネタバレ注意

『俺は、マトリには残らない』

彼の言葉が耳に張り付いている。
何度も何度も聞こえてくる。

決して広いとはいえない
浴槽に浸かりながら
涙をにじませた。

「今大路……さん……。」

彼の不器用な優しさや
建前じゃない笑顔を思い浮かべる。

「…そういえば、
初めて見た時びっくりしたよね…。」

完璧王子様の今大路さんが
実はあんなスケコマシ最低男
だったなんて。
ショックを受けたことを思い出す。

「はは、もう慣れちゃって…。
…あんな人のどこが良かったんだろう。」

何度も何度も公園で考えた。
彼の悪いところ。酷いところ。

性格の悪さとか女性を
すぐに口説くとことか
掃除ができないところとか
それこそ例をあげればキリがない。

だけどそれ以上に胸を締め付けられたのは、
"嘘をつかれ続けていた"という事だ。

「…あの時メロン、もってかなきゃ
よかったな。そしたら会わなくて
すんだのに。そしたら……。」

そしたら今大路さんの嘘も
仕事もスパイだってことも
何も知らずに呑気に別の恋を
してたのかもしれない。

そこまで考えてから

「…それでも、彼を想っちゃうんだろうな。」

と結論づけた。

地球がひっくり返っても、
今大路さんのことなんか
好きにはなりませんから！

自分はきっとそう言っていた。

「まんまと騙されて…馬鹿みたい。」

浴槽から出て体を拭き、服を着る。
鏡には涙の跡がくっきり残った
自分が映っていた。

「酷い顔。」

自虐的に笑みが零れた。
ベッドに潜る。

『…A。』

彼のことがまだ好きなのだ。
頭から離れないのだ。

またじんわり涙が浮かんだ。
抑えられる訳もなく、
それは嗚咽とともに零れ出し
枕を濡らしたのだった。