ファッションショー【神楽亜貴】 ページ3
キラキラと照らされるランウェイ。
沢山の女性が歩くそこを
舞台の裏から見る。
「すぅ〜…はぁ〜……。」
「ちょっと。何してるの。」
「いや、ちょっと深呼吸を…。」
神楽さんは私のつま先に目をやり、
頭まで視線を上げるとふーんと首を捻った。
「まぁまぁかな。怪我した子の事も
考えてちゃんと歩いてきてよね。」
「わ、分かってます！
もうすぐ出番ですよね！」
頬が強ばる。そう。
神楽さんの作った衣装を着た女性達が
ランウェイを華麗に歩いていく
ファッションショー。
1人の女性が怪我をして
また、出ることになったのだ。
「踵は浮かせない。顎はちゃんと引く。
前を見て歩いて。頭から糸で
引っ張られてるみたいに背筋伸ばして。」
「は…はい！」
「…嘘。」
「へ？」
出番直前。
神楽さんが急に私の腰を引き、
至近距離で呟いた。
「いつもの君で大丈夫だから。」
耳元で囁かれぶわっと頬が熱くなる。
「ほら、行っておいで。」
「！は、はい！」
彼の微笑みが頭から離れないまま、
歓声の中衣装を魅せるように
『いつもの私』で歩いた。
ランウェイから帰ってくると
神楽さんと目が合った。
「ど、どうでしたか！」
「そういうのは終わったあとにして。
まだ他の子が歩いてるんだから。」
「あ…すみません、つい…。」
「…まぁでも」
神楽さんはそっぽをむいて小さく呟いた。
「良かったんじゃない。」
「！…あ、ありがとうございます！」
私はその言葉に満足して着替えに
行ってしまったから、
その後の彼の言葉も気持ちも
ちゃんと聞けてなかったのだ。
「…君の為に作った服なんだから当然でしょ。」
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作者名：芋ようかん | 作成日時：2020年1月19日 23時
