幻想小噺

22瓶目 僕だけの世界 ページ32

「ソル先生、大丈夫ですか!?」

雑に揺さぶられて一気に現実に引き上げらた。
少し痺れる手で目を擦り、弟子達に大丈夫と告げる。
しばらくして慌ただしい彼らがそれぞれの仕事に戻っていき、
落ち着くと力がまた抜けてきた。

僕はまた気絶していたのか、
テーブルの上に突っ伏した様な体勢になっている。
ひとまず被害が少なくてよかった。
それにしても、最近発作のように時々倒れてしまうのは何故だろうか。
原因は分かるようで分からないが、
とりあえず深くは考えないことにしよう。

ここの所「テオ」という人物が現れたおかげで、
やたらと僕は張り合わされている。
それぞれの書き方があるんだからほっといてくれ。
……とは言うものの、テオの物語を見ていると
どこか僕の小説に似ている気がするものだから
本当にタチが悪い。

僕のアイデアは僕だけのもの、
言葉もセンスも美しさも誰にも奪わせはしない。
最も大事にしたいのは景色を読者の心に映すことだ。
繊細で儚い言葉の組み合わせで一体
どれほど僕の見ている景色を表現できるか、
その限界に挑戦し続けたい。
嫉妬と嫌悪と贔屓、黒いインクのような世界で生きてきた僕にとって
誰かに理解されるという感覚は本当に宝のよう。
僕の僕による僕のためだけの世界を
人に認めてもらいたいんだ。
これは僕の小説家としてのプライドでもあるが
また別の感情があるのも事実。
だが今は締め切り前でぼけっとしている場合ではないのだ。
インクと紙を用意し、僕は自分の世界へ戻った。

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