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時の流れ 壱 ページ2

ある日のこと。

私は母に事を頼まれて下町へ出る。

母は昔から体が弱く、看病は父がやっていた。

母の看病は父がつきっきりでやってくれる。そのため、炊事洗濯などは私がすることが多かった。

最近では仕事もしてお金を稼いでいる。仕事と言ってもそれほど稼いではいないが。

母はよく言った。



「いつもごめんね、囲炉裏。私の身体が弱いせいで」


と。母はなりたくては病気になったのではない。だから母のせいではない。

母の気持ちを紛らわそうとにこやかに笑って見せた。


「大丈夫だよ母さん、安心して。行ってくる」


母の肩をぽんと触って、柔らかく言った。戸がスパンと開いた。

奥から父が顔を覗かせた。手には桶の中に水が張っており、手拭いを浸からせていた。


「囲炉裏!日が暮れる前に帰ってこいよ!なんだって」

「鬼がでるからでしょ、父さん。いちいち言わなくても覚えない脳じゃないんだけど」


うちは代々「鬼狩りの一族」と言われている。二歳から鬼についてよく話されていた。


「な”っ。俺にだけ辛辣……」


この態度に少し衝撃を受けたのか、一歩後ずさる父。


「ふふっ、囲炉裏は有一郎似だね」

「別にあんな屑に似たくもないし比べられたくもないんだけど」


本性である。


「おまえ男には冷たいな」

「男は……………嫌いだから」

「ふふっ、まあそんなこといって」

「別に本当だし。有一郎には似たくない。む、無一郎は別だけど……」

「んだよ〜、小せぇ頃は「有一郎兄さん!無一郎兄さん!」っていってたのによぉ」

「るっさい散れ」

「ふふっ、囲炉裏は優しい男の子が好きだもんねぇ。可愛いわ」



その言葉に謎の羞恥心を覚えた。母の言葉を無視して戸を開けた。



「………………行ってきます」





「いってらっしゃい、気をつけて」

「おー!気をつけるんだぞ!」





鞄を持ち、草履を履いて外に出た。

見慣れている道を歩んでいる。

母と父は玄関で見送ってくれた。控え目に手を拭る母と、そのとなりで拳をあげている父。

これが私の在る幸せ。







今想えば、これが二人の最後の声だったな。

そうとは知らず。



ーーーーーーーー


時季羽織 (じきはおり)

囲炉裏の母

精神的病を煩っている。優しくふんわりとした口調で喋る

時季白時 (じきしろとき)

囲炉裏の優しく頼れる父。いつでも明るく笑顔。囲炉裏はあんな態度だが、ちゃんと尊敬している。


羽織の兄の子供が双子の有一郎と無一郎という設定。

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戸瀬 湊(プロフ) - さろぺさん» URLってどうすれば貼れるんでしょうか… (2019年11月30日 19時) (レス) id: c291d7c22c (このIDを非表示/違反報告)
さろぺ(プロフ) - 私のボードにURLを貼っていただけますか? (2019年11月30日 19時) (レス) id: 84dcb5da09 (このIDを非表示/違反報告)
戸瀬 湊(プロフ) - さろぺさん» 描いたものってどうすればいいですか? (2019年11月30日 17時) (レス) id: c291d7c22c (このIDを非表示/違反報告)
さろぺ(プロフ) - 戸瀬 湊さん» 大歓迎です! (2019年11月25日 22時) (レス) id: 84dcb5da09 (このIDを非表示/違反報告)
戸瀬 湊(プロフ) - お一人いて言いづらいですが…自分もイメ画描いていいですか…? (2019年11月25日 17時) (レス) id: c291d7c22c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さろぺ x他1人 | 作者ホームページ:なっしんぐ  
作成日時:2019年5月26日 21時

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