特別。*バットマン* ページ11
「…痛い。」
ズグリ、と腹に刺さるバットラングを抜けないように押さえ呻く。
脈拍に合わせて響く鈍痛と共に血が溢れ、その血溜まりには彼が映る。
「死ぬ、」と呟けば「死なせない」と返ってくるし、実際彼の手には銃ではなく包帯。今取り出したのはホチキス。
「…嫌な予感がするんだけど。」
「命が助かるだけだ。」
「バットラングは頂戴。記念にするから。」
「…服を切るぞ。」
フッ、フゥと荒くなる呼吸と冷めていく体温。反動的にバットラングを掴む手が固くなる。
ふと、このまま私が死んだら彼はどうなるのだろうと疑問が浮かんだ。
人は絶対に殺さないという信条を掲げている彼の目の前で死ぬ。彼の投げた刃によって。
「バットマン」と語りかけると、目線はそのままで返事だけを返してくれた。
「もし、私が死んだら、ねぇ、バットラングを投げた事を後悔する?」
「…必要だった。」
「でも、でも私が死んだら、?後悔する?ねぇ、もし、今死んだら」
「死なせない。…手を、離せ。」
ごぶ、と嘔吐く暇もなく吐血する。
すると途端に焦り始め、「A、ラングから手を離せ。早く!」と柄にもなく大声を出す。
「ううん、私、死ぬ。貴方の手が汚れる瞬間を見たいから。」
「やめろ…ッ!手を離せ!」
「Mr.Jでさえ成し得なかったのに、こんなチャンス無いよ。バットマンが人を殺す!最高だね。」
うふふ、と笑いながら彼の顔を見ればいつも通り、表情の分からないマスクを被っている。
そういえばこんなにちゃんと顔を見た事が無かったな。ホントに表情が分からないんだ。
「…頼む。手を離してくれ。」
「…顔見せてよ。そしたら手を離すから。」
そう言うと分かりやすく目が開いた。
自分でもどうしてこんな事を言ったのか分からない。折角彼に一矢報いる絶好のチャンスだったのに。
「誰にも言わないよ、私。」
「……」
「私ね、多分、貴方の信条なんてどうでも良いんだと思う。特別な何かが欲しかっただけ、かも。」
「…手を離せば見せてやる。」
ハァ、と息を吐き、強ばる手を離す。
間髪入れずに引き抜かれ、思わず声を上げてしまう。
痛みが引かない内に針金で傷口を塞がれ、キツく包帯が巻かれる。痛い。
「ゥ゛…ね、顔見せてよ。」
「…ナイトウィングが来る。」
「嘘つき。ハァ、痛いな…死んだ方が良かっ、」
あ。
「…結構格好いいんだね。顔。」
率直な感想を言うと、見慣れたしかめっ面で不満そうに唸った。
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岡P(プロフ) - 初めて読ませて頂きました。どのお話もとても面白く楽しませてもらいました。これからも素敵な作品楽しみにしています。 (2022年3月9日 21時) (レス) id: eaa010ae17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もゆう | 作成日時:2020年4月30日 21時