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Existence3 ページ3

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“エンバーミング”とは、遺体を消毒や保存処理、また必要に応じて修復することで長期保存を可能にする技法のことだ。



欧米では葬儀葬送に際して一般的に行われていた。その目的は、遺族の、かけがえのない人を失った悲嘆を少しでも和らげ、慰めることにある。



このようなエンバーミングを提供出来るのは、“エンバーマー”と呼ばれる専門技能者で、遺体処置技術だけでなく医学・生理学などの知識・技術の修得を求められる。



とはいえ、まだまだ認知度が低く需要も少ないのが現状だ。
つまり、“エンバーマー”と名乗るよりも、“医療行為が出来る者”として名乗った方が裏社会では金になる、ということだ。



今回、森に呼び出されるまではそう思っていた。



整が趣味の本屋巡りに勤しんでいた最中、突然森から「頼み事がある」と連絡が入ったのだ。



予定も特に無かった為、どうせ雑務だろう、と軽い気持ちで呼び出された場所へ行った。



そこが真逆、夜の支配者たるポートマフィアの拠点ビルだなんて思いもしなかった。



そして、出迎えた森から事情と頼み事の内容や報酬を聞き、断ることが出来ず渋々受諾したのだった。



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「頸動脈を一発、か。これを縫合して、暗殺の証拠隠滅ってとこかな? これで俺も暗殺加担者かぁ」



赤く染まった空間を目の前にして苦笑した。高度な処置を要求されたらどうしようと思ったが、これぐらいなら朝飯前だ。



幸運な事に必要な器具や薬品は大方揃っている____否、態々(わざわざ)揃えてくれたのだろう。



「ポートマフィア首領。血の暴政を行い、この地域一帯にその名を轟かせた夜の支配者____その最期は専属の侍医による暗殺」



自分に云い聞かせるように呟いた。“記憶する”という行為は五感を使えばより鮮明に残ると聞いたことがある。



____別に記憶しなければならない理由はない。ただ、整自身がそうしたいのだ。



エンバーミングした人々を記憶に留めておきたい。人の最期を扱う人間としてそうしなければならない、と思っているだけだ。



髪を束ね、手袋とマスクを装着する。処置に取り掛かる前に目を閉じ、静かに手を合わせた。一生の終わりとして相応しい最期に仕立てあげなければ。



生前にどんな暴君であろうと、どんな聖人であろうと死者は等しく死者になるのだから____



金色の瞳を顕にすれば、静寂が空間を包み込んだ。



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一言日記

髪伸びてきたな、自分で切ろうかな。


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歌恋 - 続きが楽しみです!お話が自分の性癖にドストライクでした… (12月31日 20時) (レス) @page13 id: 48a7de9cc2 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 姫歌さん» 姫ちゃんお久しぶりです! ありがとう! 色々落ち着いたからまた細々更新していきます〜! (2019年8月14日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - おひさしぶりです。相変わらず最高でした! (2019年8月3日 18時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 小太刀さん» わぁい! ありがとうございます!! (2019年6月2日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
小太刀 - え、かっこいい好き (2019年6月2日 14時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Ashar | 作成日時:2019年6月2日 0時

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